書庫(長編)

□其ノ弐壱
2ページ/4ページ



引き上げた為朝雄の元に、錐ン痔と廉敦が戻ってきた。


「申し訳ありません。逃がしてしまいました」

「気に病むな。あれはあれでよい。で、どうだ?奴らと戦って」

「すごく楽しかったでせう。また、戦いたいと思ったでせう」

「廉敦、為朝雄様は俺に聞いてきたんだろが。あ、後でお礼をすると言ってましたが」

「なかなかに面白いな。ふふふ、あとは白夜叉が生きて我の前に立ってくれるのを楽しみにするか」


為朝雄は未だに鳴り止まぬ砲撃に辟易した。


「それにしても、うるさいのう。まあ、今ある砲弾を全部撃ち尽くすようだし、仕方ないのかもしれぬ。それだけ、恨みが大きかったのか」

「これで我らも好きに行動ができるというもの」

「そうだ。これはわしが好きに戦うための引換券のようなもの。これからは、わしの好きに戦わせてもらう」


為朝雄と四天王は、雷刃隊という部隊を強く意識した。これ以後、為朝雄は銀時及び雷刃隊のみに執着するようになる。

一方、他の残存した攘夷派諸隊の行方である。鬼兵隊隊長・高杉晋助は、戻るために道なき道を歩いていた。高杉らが切り開いた道に、続々と兵士たちがやってきたのだ。


「気を抜くな、いつ襲われるかわかんねえからな」


その言葉が終わらぬうち、天人たちが奇襲をかけてきた。対処し得ない敵ではない。高杉らは、刃を煌めかせ、天人らに向かっていく。


「まだ終わらねえ。戦いは終わらねえ。この俺がいる限り、終わるわけはねえんだよ!」


鬼気迫るその殺気に、思わず天人たちも怯んでしまう。高杉についていこうと、兵士らも知らず知らずに狂気をまとっていく。まさに鬼兵隊の名前通り、鬼の兵隊と化していた。

仲間が死んでも、その屍を盾に使い、敵を討ち果たす。この戦いで、高杉は一段上の男になったと言っていい。自らの破壊衝動を狂気に乗せる。その狂気が兵士らに伝染し、狂気の戦闘集団が完成する。

壊すこと、すなわち敵を殺すこと。単純明快な答えをひたすら遂行する。鬼兵隊の揺るぎない命題がここに誕生した。

凌爽隊と快援隊は、何とかして救援に向かおうとするが果たせなかった。

やがて、砲撃の音が止んだところで桂小太郎は言った。


「退くぞ、一刻も早く」


そう言うや、桂はすぐさまこの場を離れた。慌てて快援隊もついていく。


「早いな、さすがは」

「“逃げの小太郎”とでも言いたいか?坂本」


坂本辰馬は、先に言われて苦笑いを見せた。追っ手が来るとも限らない。しかし、ここは最短の来た道を駆け抜けることにした。

多少の被害は仕方ない。桂と坂本は先を急ぐ。しかし、懸念された追っ手には出くわさなかった。これは天人側が、退路の伏兵を考慮に入れていなかったためである。砲撃場所に戦力集中させすぎたのが原因であった。

凌爽隊と快援隊は、窮地を脱し、無事に帰還することができた。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ