書庫(長編)

□其ノ弐壱
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この戦いが攘夷戦争に与えた影響は大きかった。

この戦いは、劣勢である攘夷派によって引き起こされた。攘夷派としては、最近の勝ち戦続きにより、天人を侮りがちになっていた。首魁・頬鳥居圭助としては、天人に快勝して、幕府内の攘夷派の復権、それによる日本総攘夷化を目論んでいた。

天人側も攘夷派を引きずり出して、叩きのめすという意図があり、為朝雄は策によって攘夷派をおびき出した。

期せずして、天人、攘夷派の思惑が合致した形になり、戦いが始まったのである。

天人は本格的な反撃を開始するまでは、ひたすら攘夷派の士気を高揚させて、罠に引きずりこんだ。

勝ち戦に乗じて、攻め込んだところを、天人側は大量の大砲・鉄砲を投入して、包囲殲滅を目論んだ。

攘夷派の死傷者は7割強。軍隊としては、壊滅状態である。首魁・頬鳥居圭助のほか、主要な幹部、隊長も多くが戦死した。

まさに攘夷派の完敗というべき戦いである。この痛手は大きく、攘夷派は戦局を動かせる兵力を失った。以後の戦いは、攘夷派を維持するための戦いになり、天人を打ち払うという大命題は崩れ去った。補いきれない痛手を、攘夷派はこの一戦で被ってしまったのである。

幕府内にあっては、この戦いに完敗したことにより、開国派が実権を掌握した。攘夷派は復権もならず、やがて攘夷という言葉も憚られた。やがて、幕府も攘夷派殲滅に助力していくことになる。

この戦いにより、攘夷派は完全に息の根を止められた。以後は、消え入りそうな攘夷の灯火を必死に守り続ける戦いに変わっていく。攘夷は無理である。それを突きつけた戦いでもあり、これ以後の攘夷戦争は消化試合の体をなしていく。


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