書庫(長編)
□其ノ弐弐
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雷刃隊は何とか天紋嶺へと戻ってきた。すぐさま、軍医が呼び出され、坂田銀時の治療に当たらせた。
軍医が治療にあたっている間、隊士らは装備品の確認、天紋嶺の守備固めにあたった。
銀時の部屋の外で、鳥尾小耶太と月詠は治療が終わるのを待っていた。
暗く沈んだ表情の月詠を、小耶太は励ました。
「心配はいらん。これくらいの傷は、何度か受けてきよる」
「そうでありんすか?じゃが、わっちにはこの度の傷、そうとうに深いものじゃと思いんす」
月詠は銀時が傷ついた一部始終を知っている。物凄い勢いで銀時に刺さった二本の矢。特に二本目は、月詠が苦無を投げて、軌道を逸らせようとしたにも関わらず、またも銀時に当たった。相当な手練れであり、尋常ならざる者であることは想像に難くない。
「小耶太」
「ん?」
「為朝雄とは誰じゃ?ぬしは知っておった風であったが」
「ああ、知っちょる。あいつはわしも銀時も知っとる。何度か戦ったからな。為朝雄は弓の名手でな、鉄砲よりも早さも破壊力も段違いじゃ。あの二人は知らんが、為朝雄の部下じゃろ。似たような顔をしとったし」
小耶太は苦い表情を浮かべた。為朝雄が参戦していることなど、想定外の話であったからだ。
「為朝雄が参戦しているなら、今度の戦いの大敗も頷ける。徹底して、為朝雄の存在を隠しちょったんじゃろな。為朝雄が参戦しているなら、用心しただろうに。それほどの男なんじゃ、為朝雄という男は」
「それほどの男でありんすか?」
「ああ、奴もそうじゃが、つくちゃんが戦っていた奴らも強そうじゃし」
「うむ。わっちもそう思いんす。部下もなかなかに強いのではなかろうか」
「“勇将の下に弱卒なし”なんじゃろ。はあ、骨が折れる事態になってきたっちゃ」
銀時の部屋の戸が開いた。軍医が二人に入るように促した。そこには寝息を立てて眠っている銀時の姿があった。
「どげなじゃ?」
「まあ、今は薬が効いて眠ってはいるが、大変な事態じゃ」
「大変な事態とは、どういうことでありんしょ?」
「命には別状はない。ないが、矢が刺さった場所。そこの筋繊維が断裂している。立て続けに矢を受けているため、断裂の度合いが酷すぎる。これでは、筋繊維が結合するまで、かなりの時間を要するし、最悪の場合は」
「最悪の場合は?」
「左腕が使えなくなる、ということもあり得る」
「左腕が」
「使えない?」
小耶太と月詠は激しい衝撃に襲われた。右腕だけでも戦闘は出来るが、違和感は拭えないだろう。万全な状態でなければ、とても為朝雄には太刀打ちできまい。
「いやあ、変な口約束言うたかもなあ。お礼参りする言うたんは」
「まずは、無事であることはよかった。それからの事はそれから」
「悠長なことは言ってられんちゃ。すぐにでも、こちらに攻勢を仕掛けられてしまう。何とかせんにゃあ」