書庫(長編)

□其ノ弐弐
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小耶太は月詠に言った。


「つくちゃん、銀時の看病を頼んでもええかの?」

「わっ、わっちがかえ?」

「つくちゃんしか頼めん。もしも、もしもじゃが、わしらが戦っている隙に、ここへ敵が忍び込むというのもなくはない。そんな時、つくちゃんが銀時の傍におれば助かるんじゃが」


月詠はしばらく思案した。とはいえ、小耶太の考えには一理ある。であれば、答えはおのずと導かれる。


「わかりんした。引き受けよう」

「看病はの、左腕のリハビリも入っとる。早く銀時にゃあ復活してもらわんといかん。そんなに治療に時間は割けれんがな」

「今はこうして眠ってはおるが、起きたら難題が山積しちょる。このまま起きねばそういうことに遭わんでもええのに・・・そっちの方が幸せかもしれん」

「小耶太」

「そう、ふと思うただけじゃ。あんまりにもぐっすり眠っておるけえの。じゃあ、わしはこれで失礼するっちゃ。じゃあの」


小耶太はそう言って、部屋を出て行った。取り残された月詠は銀時の顔を眺めていた。たった数時間前、たった数時間前は銀時らの行動に怒りのツッコミを入れていたというのに。銀時とバカなやり取りをしていたというのに。


「何で、何でこんな事に・・・何故、何故にこうなってしまったんじゃ」


問わずにはいられない。月詠は何度も問うてみた。


「わっちの、わっちのせいじゃ!わっちが銀時を止めておらねば、わっちが行くべき道を選ばなかったら。こんなことにはならんかったんでは?」


自分が愚かしく思えてくる。あの時の自分の選択ははたして最良のものであったのか?否、違うのではないか?結果、敵の襲撃を受けて、銀時は重傷を負ってしまったではないか?

否定的な考えは飛び火し、自分の存在すらも否定してしまう。


「元々、わっちはこの世界、この場所にはおらぬ人間。そんなわっちが銀時らと共におり、戦っておるから、銀時はこんな目に遭ってしまったのではなかろうか」


月詠は自分のせいで、銀時が怪我をしたと思い込んでしまった。自分がいたから、自分がここに留まっているせいで、あるべき時間の流れが変わってしまったのではないのか。


「だとしたら、わっちはここにいらぬ人間ではないか。わっちはどうしたらよいじゃろう」


そんなとき、先ほどの小耶太の言葉を思い出す。『このまま起きなければ・・・』という言葉が、月詠の脳裏をかすめた。

銀時が回復したとしても、それは彼自身に負担や痛みを強いる茨の道ではないだろうか。だとしたら、銀時はこのまま目を覚まさないほうが良いのではないか。



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