書庫(長編)

□其ノ壱
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「ん、うううぅぅ、ふぅん」

月詠が目を覚ました。あたりを見回してみる。また、あたりを見回してみる。何かが違う、何かが寝る前とは違う。

まず、着衣が違う。寝巻きを付けて寝ていたはずなのに、今はいつもの装束をしている。寝ていた所が違う。確か、布団で眠っていたはずが、今は背中にひんやりとした感覚がある。手で触れてみると、土の感触がある。どうやら、今の自分は地べたで寝ているようだった。そして、一緒にいるはずの男が隣にいない。

月詠の目が眠け眼から、完全に目を覚ました。起き上がろうとすると、自分の首筋に無数の白刃が突きつけられる。


「何じゃ、ぬしたちは?わっちは、ぬしらの事など知らぬぞ。なぜ、わっちはかようなところにいるのじゃ?」

「それはこっちが聞きたい。いきなり空から落っこちてきたのはそっちだぞ。お前は何者だ、何の目的があって来た?」

「わっちは覚えがない。わっちも、なぜにこのような場所におるのか、皆目見当がつかぬのじゃ」

「何だこいつ、記憶喪失かなんかか?」


首に白刃を突きつけたまま、男たちはああでもない、こうでもないと話を続けた。月詠としては、完全に訳が分からない事態になった。起きてみたら変なところにいるし、尋問されてるしで、頭の中を整理することもできない。


「どうだあ、奴さん起きたか?」

「ああ。起きたけどよ、何か言ってることおかしいぜ。覚えがないとかさ、記憶喪失なんじゃねえかなあって」

「弱ったなあ。まあ、起きたばっかりだから仕方ないんじゃね?」

「じゃあ、ちょっとこっち来てくれよ」

「わあったよ」

人ごみを分けて、その男は姿を現した。銀色の髪に、死んだ魚のような目をした男。その男に月詠は見覚えがあった。というか、さっきまで月詠の隣で一緒に寝ていた男。月詠は思い切り、その男の名を叫んだ。

「銀時!!!!!」


月詠の叫びを聞き、坂田銀時はキョトンとした面持ちで彼女を見つめた。しばらく見つめたあと、銀時は口を開いた。


「おたく・・・誰?」

「なっ、銀時、わっちが、わっちが分からぬのか?月詠じゃ!月詠でありんす」

「月詠?ありんす?覚えがねえな、全然面識ねえんだけど」

「銀時、どうする?何かお前の名前知ってるみたいだけど」

「とりあえず、捕えておけ。落ちついたら、じっくり調べてみるから」

銀時がそう告げると、男たちは月詠の腕を掴み、連れ去ろうとする。月詠は抵抗するが、男たちに囲まれてはどうすることも出来なかった。一瞥もくれず、連れ去られるのを背中で見送っている銀時に月詠は必死に訴えた。


「どうしたというんじゃ、銀時!何がどうなっておるのか、分かりんせん。ちゃんと説明しなんしっ!銀時、こっちを向け、銀時っ」


遠ざかってもなお、月詠は銀時を呼び続ける。


「どしたんな。ほんに覚えがないん?」

「ねえんだよ。あったら、覚えがあるって言うって。あんな、ベッピンなんだしよ」

「お前、モテっからさあ。何か手ひどく分かれた口じゃないんか?」


そう言って、銀時の隣にいた鳥尾小耶太は銀時をからかった。小耶太は銀時の表情を読み取って、どうも本当に知らないんだと分かると、話題を変えた。


「どうせるんだ。捕えてはみたが、どういう女なんかのう。素性が分からんいうのは、気味が悪い」

「まあ、こればっかりは時間をかけるしかねえわな。じっくりと話していって」

「何や、たらしこもってや。げに、お前はエロいねえ」

「小耶太く〜ん、死にたいわ〜け〜」

「さてと、見回りでもせんと」

「お前、見回り終わったばっかりだろが!」
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