書庫(長編)
□其ノ壱
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「よぉ、手荒なマネして済まなかったな。あ、腹とか減ってないか?ほれ、これでも食ってくれ」
そう言って、月詠に銀時は何かを手渡した。
「これは?」
「スキッパーズと、んまい棒オニオンサラダ味だ」
「ぬしはナメておるのか?子供のおやつではないか」
「仕方ねんだよ。兵糧状況が悪くてな、こういうのしか出せねえんだ。ここの連中は、これで我慢している。ちなみに、スキッパーズは主食でな、んまい棒オニオンサラダ味はそのままサラダと思って、食ってくれ」
「何がサラダじゃ、味がサラダ味だけであって、全然サラダじゃないわっ!栄養バランスあってないが如しじゃ!」
「お前、けっこう言うのな」
月詠は手渡されたスキッパーズと、んまい棒オニオンサラダ味を食べてみる。スキッパーズは非常にチョコの味が強く、甘いものが嫌いな人間ならば、吐き気をもよおすほど甘さが強い。さらに、んまい棒オニオンサラダ味に至っては、スナック菓子ゆえに口の中が乾いてしまう。
「ぬしら、これを何日間食しておる?」
「うーん、かれこれ5日目に突入かな。補給が来るまでは、こんなもんだ」
「すまぬが、水をもらってもよいかの。スキッパーズが歯にくっついて、気持ち悪い」
「おお、悪い悪い。ほれ、これでも飲め」
銀時は竹筒を月詠に差し出した。月詠はそれを受け取ると、口の前に持っていくが水が出てこない。何度も口の前に持っていけども、水は出ない。
「おいおい、竹筒知らないのかよ。ほれ、貸してみ」
銀時は月詠から竹筒を取って、竹筒の栓を抜いてから再び月詠に手渡した。月詠はそれを一口飲んだ後、一息ついた。
「ふう。スキッパーズとやら、腹もちがいいのかの。何だか腹が満たされた心地でありんす」
「本当だったら、こんなのあり得ねえんだが残念ながらこれが現実だ。しょうがねえと受け入れてくれ」
「感謝する」
「さて、腹の虫が収まったところで本題に入ろうか。お前は誰で、どこから来たんだ?」
「わっちは月詠でありんす。吉原自警団・百華の頭でありんす」
「吉原・・・へえ。吉原からわざわざ、こんな所へ何の用事があって来た?」
「・・・・・・わっちにも分からぬ」
「分からない?何でさ、他の奴らの話じゃあ、お前は空から降ってきたって言ってたぞ。いかにもラ○ュタめいた話だ、こんなベッピンさんが降ってくるなら、俺は○ズーにでもなりたかったけどな」
銀時と話を続けているうち、月詠は自分が知っている銀時であると確信した。口調も話し方も、自分が知っている銀時である。ただ一つ違うことは、銀時は自分の事が分からないということだけである。銀時の答えは分かっていたが、やはり月詠は聞かずにはいられなかった。
「銀時。覚えて、おらぬのか?わっちの事を、わっちにかけてくれた言葉たちも」
切実に訴えてくる月詠の表情をしっかりと見据え、銀時は答えた。
「悪い、覚えがねえんだ。お前が誰であるのか。記憶のどこを探しても、分からねえんだ」
下を俯き、申し訳なさそうに告げた銀時を月詠も見ることは出来ず、二人は下を向いたまま沈黙が流れていった。
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