書庫(長編)

□其ノ弐
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坂田銀時と月詠は、次に発する言葉を探していた。それがしばらくの沈黙に繋がった。先に沈黙を破ったのは銀時だった。


「明日、お前を解放する。吉原だっけか、ここから少し離れた所に街がある。そこから吉原に戻ればいい。ちゃんと送り届けさせるからさ」

「すまぬ。話は変わるが、ここはどこなのじゃ?」

「ここは天紋嶺。俺らは攘夷派の集まり“雷刃隊”だ。ここで天人と戦ってる」

「え、攘夷派?もしかして攘夷戦争でありんすか?」

「おうよ」


月詠は銀時の言葉を聞いて、妙に納得してしまった。鳳仙や地雷亜戦で見せた技量や殺気は、数々の修羅場を乗り越えねば身につかぬと前々から思っていた。その答えがあまりに唐突に明かされた。


「攘夷戦争とは長年続いている戦争のはずでは」

「最初からカウントすりゃ、かれこれ20年くらいにはなるからな」

「では、ぬしは最初から戦っておったのか?」

「おいいぃぃ!んなわけあるかあ!最初から戦ってたら、銀さん今頃ナイスミドルだよ。ちょいワルオヤジでブイブイ言わせてるからね」


言われてみれば、確かにそうだった。長年続いた攘夷戦争に最初から参加していれば、銀時はかなりの年上になってしまう。

「俺が参加したのは、つい最近の話だ。今、攘夷派の連中には若い奴等がどんどんと参加してる。まあ、ここは危険なトコなんだわ」


月詠は何かを言いかけようとしたが、言葉が出て来ない。銀時はその様子を見てとって、月詠の髪を撫でながら、諭すように言った。


「お前が俺と一緒にいたってのも現実。俺がお前を知らないのも現実。どっちが真実かはわからねえ。だが、ここで起こっていることについては、受け入れた方がいいんじゃねえか」

「そう、じゃな。受け入れていくしかない。食事については感謝する。口の中が気持ち悪かったけどな」

「へっ、一言余計だっての!明日の朝には出発するから、よく寝ておけよ」


銀時が去った後、月詠はようやく頭の思考能力が回り始めたようで、現状を掌握してきた。


(つまり、わっちが今いるのは過去ということか。ならば銀時がわっちを知らぬのも合点がいく。何せわっちと銀時が出会う何年も前にいるのだから)


何のために自分は過去へと来たのだろう。この世界で今の自分に何が出来るのだろう。思いを巡らせても、今はこの暗闇のように先は見えないばかりだった。
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