書庫(長編)

□其ノ肆
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天人来たる。この報に雷刃隊の面々は弾かれるように、武具・防具を装備していく。坂田銀時は側にいる月詠に叫んだ。


「何してる?早く来い。お前は俺と一緒に来るんだよ!」


グイっと月詠は手を引っ張られ、銀時の部屋へと連れて行かれた。銀時は素早く防具を身に着けたあと、ゴソゴソと何やら探し始めた。


「お前、それだとここでは戦いづらい。こいつに履き替えておけ」

「銀時、これは?」

「草鞋だ。お前が履いてるのだと、戦場では不向きだからな」


銀時は月詠の履いているブーツの不便さを指摘し、履き替えるように促した。口を動かしていても、装備を付ける手は止まっていない。これを見て、月詠は慌てて靴を履き替える。

銀時は白の陣羽織を身に纏って、刀を腰に差した。準備が整うと、銀時はある物を月詠に渡した。


「銀時、これは何でありんす?」

「見ればわかる。ちょっとした祝い品だ。先、行ってるからな。さっさと支度しちまえよ」


月詠が銀時に渡された物を広げてみると、それは白い羽織と白鉢巻であった。感慨を覚える暇もなく、月詠は羽織に袖を通し、白鉢巻を締めた。羽織は銀時の丈らしく、月詠には少し大きいようだった。


「・・・大きいではないか。ぬしの羽織は」

「姐さんっ、早く!みんな集まってます」

「わかった。すぐに行きんす」


月詠が現れると、先駆け隊を率いる鳥尾小耶太が羽織の袖を掴んで止めた。


「つくちゃん、銀時と一緒に行くんじゃろ?」

「ああ、そうじゃが」

「一つ忠告しとく。決して、銀時の前には立つな」

「なぜじゃ?」

「銀時の中には夜叉がおる。普段は眠っておるが、そいつが目を覚ましたら、あいつの前におる奴、皆殺しになるっちゃ。だけえ、あいつは“白夜叉”と言われとるんじゃ」


小耶太の言葉は脅しではない。そう月詠は感じ取った。


「わかった。肝に命じておく。じゃが、白夜叉だろうが何だろうが、銀時には変わらぬ」

「つくちゃんが見た銀時と、白夜叉の銀時は似て非なるもの。白夜叉は銀時であって、銀時じゃないけえの」

「副長、先駆け隊、準備出来ました」

「よっしゃあ、先駆け隊行くぞ!あ、つくちゃん。その羽織と白鉢巻は、銀時が前に使ったもんじゃ。大事に使ってくんなんし」

「こ、小耶太。真似をするでなし!」

「それ、よう似合っとるぞ。つくちゃん、生き残ったらまたの」


小耶太は足早に先駆け隊と共に出撃した。見送る月詠の頭にコツンと何かが当たった。


「ほれ、俺らも行くぞ。待ち伏せするんだから、けっこう長くなるぞ」


月詠は頷いて、銀時の側を歩いていった。月詠は、小耶太の言った言葉が心に引っ掛かっていた。しかし、心に囚われ事があっては戦いに支障をきたす。今はそれを隠し、銀時と共に戦地へと向かった。
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