書庫(長編)

□其ノ肆
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『雷刃隊』の旗をなびかせて、小耶太率いる先駆け隊は天人たちの元へと向かった。やがて、小耶太の眼前には異形の集団が彼らを待ち受けていた。


「ははっ、やっぱり何度見てもおかしうなる。あんなモンは、鳥獣戯画だけの世界じゃあ思ったが、実際におるもんなあ。これじゃけえ、世の中は面白いんじゃ」


両軍が対峙し、しばしの沈黙が流れる。しかし、それは一瞬のものであった。天人たちは今まで目にしていた小耶太の姿を見失っていた。しかし、次の瞬間には小耶太は天人軍の懐深く入り込んでいた。

小耶太の刀が煌いた。天人の兵は、何が起こったか分からず地面に倒れていく。異変にざわめく暇もなく、次々と鮮血と共に同胞たちが斬られてゆく。小耶太はまたたく間に切り伏せたあと、背後の隊士らに号令する。


「やっつけぇい!!!」


小耶太の号令の後、隊士らは自らを奮い立たせるように、鬨の声をあげて天人たちに突っ込んでいく。すぐに、あちこちで武器と武器がぶつかり合い、怒号と断末魔が聞こえてくる。

その中でも小耶太の存在は際立っていた。左手には太刀を、右手には鞘を持って、右へ左へと斬り立てる。小耶太の太刀の鞘は鉄で拵えてあり、打撃武器としても扱えた。彼の異名である“神速の鋭鋒”とは言い得て妙である。素早く敵の中へと分け入り、楔のごとく鋭い攻撃を仕掛ける。まさに鳥尾小耶太という男は、先駆けという役割にうってつけの存在であった。

小耶太は知っていた。戦いにおいて、恐怖を一度生み出してしまえば、それが時を負うごとに伝染することを。恐怖にひるんで、生を惜しむ敵ほど扱いやすいものはない。命を惜しめば、捨て身になれず、攻撃が及び腰になるからだ。さらに、小耶太の奮戦ぶりに押されて、隊士らの士気も上がるという利点もあった。


「天人らも斬ってしまえば、屍になるのは人間と一緒じゃあ。どんどんと踏み込め!命は天に預けちまえ」


向かってくる天人の眉間に、小耶太は鞘で思い切り打ち込んだ。もんどり打って倒れたところを太刀で深々と突き刺す。


「副長、そろそろ頃合です」

「よーし、退けぃっ、皆退けぃっ!」


小耶太の号令を受け取ると、隊士らは潮が引いたように退き始める。小耶太は最後方にて、敵を食い止めながら徐々に後退する。

天人たちはここぞとばかりに追撃を開始した。今まで劣勢であったため、それを挽回しようと猛然と攻撃を加えてきた。
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