書庫(長編)

□其ノ肆
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腕力においては、天人に敵うわけもない。そんな事は隊士たちも百も承知している。攻撃を受け流し、気を逸らしながら退却していく。しかし、中には捌ききれずに天人たちの刃にかかる者もあった。

先駆け隊は退却を続け、ススキが生い茂る草原に出た。その中を隊士たちはバラバラに逃げていった。彼らの姿をススキが隠し、天人たちの目にはガサガサとススキが揺れ動く様しか見えなくなった。

ここに来て、天人たちの動きが遅くなる。しかし、自分らの眼前にて遠ざかろうとするススキの動きを見逃すことなどできなかった。手ひどい損害を受けて、このまま退くことなど考えられない話である。

天人たちは動いているススキに向かって進み始めた。その様子を隠れ見た小耶太はほくそ笑んだ。小耶太は右手を上げて、攻撃の機会を窺っていた。後方へ退いていたのは、退却した先駆け隊の一部の隊士であり、ほとんどはこのススキの中で隠れていた。天人の指揮官は部下たちに叫んだ。


「逃げる奴ら、皆殺しにせよっ!」


殺到する天人たち。しかし、次の瞬間、天人たちの体は地面に沈んでいった。そこには雷刃隊が掘り進めていた落とし穴があったのだった。あちこちで天人たちは落とし穴に引っ掛かる。落とし穴に嵌った天人たちは、中の泥濘によって、動くことがままならない。前が詰まったことにより、後方が立ち往生する事態となり、天人たちの動きが止まった。

これを見た小耶太は、旗持ちに大きく左右に隊旗を振らせたのち、上げていた右手を振り下ろした。その後、草むらから無数の矢が天人に向かって放たれた。

さらに側面からも、無数の矢が天人たちを襲った。正面と側面から矢を射掛けられ、天人たちは混乱状態になった。正面から小耶太らの先駆け隊、側面から銀時らの本隊が突撃してくる。

月詠は天人を見るのは初めてではない。しかし、異形の者たちが殺気立った顔で、刃を振り上げる姿はちょっとした恐怖でもあった。


(異人であろうとも、戦うのに変わりはしんせん。わっちの技がどこまで通じるか。まずはそれを見極める)

「死神太夫・月詠、参るっ!」

「いいか、素早く動けよ。一ヶ所に固まるんじゃねえぞ。一撃加えたらすぐに離れろよ!」


銀時の指示に、隊士らはおう、と答えた。月詠は二振りの小太刀を手にして、銀時と共に敵に向かって駆け進んだ。
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