書庫(長編)
□其ノ伍
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天紋嶺に戻った雷刃隊は見張りの者を残して、仮眠を取ることにした。
「つくちゃんは、どこで寝るんや?」
「あ、決まってはおらぬなあ」
「じゃあ、銀時のトコで寝ればええじゃないか?」
「は、何でそうなるんだよ?」
「つくちゃんが言うに、つくちゃんはここに来るまでは銀時と一緒におったらしいじゃねえか。だったら、問題ないっちゃろ」
銀時は月詠の顔を見ると、そっぽを向いてしまう。それを察した小耶太は、さっさと銀時が月詠と共に寝ると勝手に決めてしまった。反論する銀時に、わしは疲れたと言って小耶太はさっさと行ってしまった。
「じゃあ、来るか?」
「そうするしかなかろう。世話になる」
「まあ、よろしく」
二人は銀時の部屋へと入っていく。二人は着ているものを脱いでいった。銀時は陣羽織と防具を取って身軽になると、肩をぐるぐると回しながら一息ついた。月詠も羽織を脱ぎ去って、白鉢巻を取った。
「今、風呂入る用意してっから、先に入れよ」
「ここには、風呂もありんすか?」
「そりゃあ、長期間ここにいるんだもん。それくらい作りますよぉ。お前はよく頑張ってたからなあ。ご褒美に一番風呂に入らせてよろう」
「何じゃそれは。恩着せがましい気もするが、ありがたくいただこう」
月詠は銀時の言葉に甘え、風呂へと入っていった。体を洗って、湯船に浸かる。そこで思うことは、白夜叉のこと、それに対して恐れを抱いた自分のことである。
全身から発せられる殺気は尋常なものではなかった。“銀時は銀時でそれに変わりがない”自分が言った言葉が、妙に心に突き刺さる。口では大層な言葉を言っても、実際に向かい合ったときに恐れを抱いてしまった自分に。
「あの時の銀時を、わっちは銀時だと思えなんだ。狂気をはらんだその眼、全身から沸き立つその獣性、狂気を帯びたその太刀筋。わっちはあの時の銀時が」
言いたくはない。しかし口に出さねば、自分が何かに押し潰されてしまいそうになるようで。消え入りそうな声で言った。
「・・・・・・怖、かった」
好きな男を怖いと思ってしまった。好きな男に刃を向けた。語った言葉が、いかに軽かったのかを思い知らされた。生まれてしまったこの溝をどうしたらいいのか。月詠は自分に問いかけていた。