書庫(長編)

□其ノ陸
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坂田銀時の言葉は、月詠にとってある意味衝撃的だった。しかし、有り得ない話でもなかった。そうでなければ、こんな極限状況で自分の精神を正常に保ち続けることは出来ないからだ。だが、銀時はその状況を良しとはしていない。何とかしたいと思っている。銀時の言葉や表情から、月詠はそう読み取った。しかし、その術が見つからない。月詠にしても何とか助けたいと思うが、月詠自身どうすればいいか分からない状況である。


「辛気臭い話になっちまったな。悪い、今の話は忘れてくれ。だけど、聞いてくれてありがとな。ちっとは楽になった」


銀時は立ち上がると、月詠の頭を軽く撫でて、その場を去った。残された月詠は、銀時の言葉を反芻していた。


「このままではいかん。何とかしなければ。おそらく、このままでは銀時が壊れてしまいんす」


その後、雷刃隊の面々は食事を摂っていた。そんな中、月詠は鳥尾小耶太に話しかける。


「小耶太、食事のあとに相談したいことがあるんじゃが」

「相談?まあ、ええけど」

「姐さんっ、食事が進まれてないですが、お口に合いませんか?」

「え?そんな事はありんせんっ!美味すぎて、食べるのを躊躇うほどじゃったんじゃ。いや、うまいから」


食事の後、月詠と小耶太は居住区域から少し離れた所にいた。小耶太は月詠に腰掛けるよう促した。


「で、何の用じゃ?」

「銀時と白夜叉のことじゃ。銀時を古くから知るぬしなら知っておるかと思うのじゃが」

「なあんじゃ、そねえな事か。ちょっと期待しちまったがの」

「何を期待しておったんじゃ?まあ、よい。前にぬしは銀時と白夜叉は別物と言いんした。確かにあれは別人としか思えなかった。あの殺気、あの剥き出しの狂暴性は銀時とは思えなかった」

「まあ、そう思うのは無理もないわな。あの姿を見れば、誰もが思うじゃろ。ああなれば、あいつ自身が収まるまで手は出せんけえ」

「小耶太、銀時はなぜあのような」

「銀時は話さんかったんか?」

「・・・話しては、くれた。じゃが、銀時をよく知るぬしの意見も聞いてみたくての」


小耶太は空を見上げる。吸い込まれそうなくらいの真っ暗な夜空である。しばらく空を見上げたあと、小耶太は話し始めた。


「わしと銀時は子供の頃からの付き合いじゃ。そして、戦う事を決めたのも一緒だった。戦う事を決めたなら、人を斬るっちゅうのも覚悟せんといかん」


小耶太の言葉は月詠は頷いた。自分にしても吉原を、日輪を守るために自らの顔に傷を付けた。戦うという事は生半可な覚悟では出来ないからだ。
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