書庫(長編)
□其ノ壱
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「月詠姐、月詠姐!起きてよ、ご飯にするよ!今日は銀さんたちも来るんだから、さっと起きるんだよ」
「うむ。すぐに行くゆえ、待ちなんし」
日輪の息子である晴太が月詠を起こしにきた。ゆっくりと立ち上がると、月詠は広間の方へと向かった。いつものように三人揃って、食事をとった。食事をしている中、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「お邪魔しますヨー!」
「どうも、お食事中に来ちゃってすいません」
「何言ってるカ、新八。メシ時狙って来たんだろがヨ。自分偽ってんじゃネーヨ、だからお前はダメガネアル!」
「そことダメガネが関係あんのかあああ!!!」
「ったく、何そんなトコでくだらねえ喧嘩してんだ。さっさと食っていけばいいんだよ。では、正直に言っておかないとな。ゴチになります!」
坂田銀時・神楽・志村新八の万事屋の面々がやってきたのだった。まあ、食事をごちそうになろうという浅ましい魂胆ではあったが、日輪は笑顔を絶やさずにこれを迎え入れる。月詠はやれやれといった表情を見せ、晴太は万事屋の面々が来てくれたことに屈託のない笑顔を見せた。
「いやあ、日輪のメシはホントにうまいアル。これなら毎日ゴチになりたいアル」
「神楽ちゃん、そんな無理言って」
「え、オイラは全然構わないけど。ねえ、母ちゃん、それでもいいよね?人が多くて食べるご飯って、おいしいもんね」
「そうだねえ。それもまたいいかもねえ。楽しくって、月詠も喜ぶと思うわあ」
「なっ、何を言うておる日輪。銀時らが来たとて、わっちが喜ぶわけはない。普通じゃ、何も変わりはしんせん!」
「え〜、ツッキー、私らが来ても全然嬉しくないアルカ?何だか寂しいヨ」
「あ、いやいや、神楽、わっちは来てくれて非常に喜ばしく思うておる。何じゃ、そのジトっとした目は。本当じゃ、本当にそう思うておりんす」
「ははっ、月詠姐。神楽ちゃんには負けちゃうね」
「ふふっ、グラさん。本当に吉原で働いてもらおうかしらねえ」
「やめときなって、吉原のグレードが下がっちまうから。吉原に閑古鳥鳴かせちまっていいのかよ」
「オイイイイィィィ!!!そりゃあ、どういう意味だヨ、クソ天パ。上等だヨ、ここでやってやるアル」
騒がしいながらも、笑いの絶えない食卓に、つい月詠も顔が綻んでしまう。それを見て日輪も嬉しそうに、おかわりと差し出された茶碗にご飯を盛る。
食事の後、晴太は神楽と新八と共に遊んでいる。月詠は銀時と共に自分の部屋でくつろいでいた。今日は晴天であり、温かな陽射しが部屋を優しく照らしている。
「お前、今日は非番なの?」
「そうじゃ」
「最近、吉原はどうなのよ?」
「全く平和というわけではない。じゃが、大きい事件は起こっておらぬ。状況的にも落ち着いてきたというところかの」
「へえ、そいつはいいや。そうしたら、こうしてお前とまったりできるわけだし」
そう言って、銀時は月詠に視線を向けた。月詠は柔らかい表情で銀時を見つめ返す。穏やかで温かい。そして、傍には銀時がいる。こんなに幸せでいいのだろうかと月詠は思う。
「幸せじゃな」
「んあ?いきなりどうしたんだよ」
「あ、いや、ふとそう思っての。こうして、のんびりと日を過ごす時が来るなんて、想像もしておらんかった。吉原にこのような温かい陽射しが降り注ぐことさえも。この陽射しは・・・そうじゃな、“シアワセの陽射し”でありんす」
「シアワセの陽射しか、いい表現使うじゃねえの」
陽射しを浴びながら、二人は肩を寄せ合った。穏やかに過ごせるこの時間を、月詠はとても貴重に思った。くつろいでいる月詠を見て、銀時は何とも言えぬ心地よさを感じていた。この時間が終わることなく続いていく。二人は根拠はないものの、同じ思いを抱いていた。