書庫(長編)

□其ノ参
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“夜兎”とわっちら“百華”の対決は唐突な形で始まった。確かに風の噂では、夜兎がわっちらを狙っているという話はありんした。しかし、敵対チームはまだまだおるというし、激突はしばらく先じゃと思うておった。


しかし、わっちらの目の前に現れたのは、噂に聞く夜兎そのものじゃった。無数のバイクのライトの光、先頭で降り立った真紅の特攻服をまとった少女は、大音声でわっちらに呼びかけた。


「はいっ、マァジィカルバナナッ!最高と言ったら?」


この問いかけ、ついに夜兎がわっちらに牙を向けてきた。しかし、わっちらに臆する心はなかった。


「うちの総長!!!」


百華の面々は異口同音にこう返した。一瞬の沈黙が流れた。その後、一つの影が猛然と躍り出た。


「来るぞ!気をつけなんし。気迫で圧されるな」


わっちの言葉に百華の面々は、おう、と答える。百華を立ち上げてから、一番苦しい戦いになる。そう、わっちは予想しておった。


「おらあっ!グラさんに続けえっ、臆病風吹かしたヤツは、鼻フックデストロイヤーの刑だからな」


副長の志村新八の叫びが響く。夜兎は猛然とわっちらに向かっている。あちこちで戦いが起こった。

さすがに数多の戦いをくぐり抜けたチームである。気を抜けば一気にやられてしまう。じゃが、わっちらもこれに屈するようなヤワなチームではありんせん。


「うおらあっ、ちょっとおとなしくしてろやああ」

「そうはいかぬ。わっちらは元から人数が少ないでの。おとなしくしてもらわねばならぬのは、ぬしらのほうじゃ」


わっちは相手のあごを狙って殴った。これによって、相手の脳が揺らされて行動が取れなくなりんす。わっち自身は男と対しても、負ける気はせぬが、やはり男と女では膂力と体格の違いがあり、まともに打ち合うのは愚かなことじゃからの。日頃より、体術・武術の鍛錬を行っておった。

まともに男とやり合う必要はない。力で劣るなら、それ以外の要素で補えばよい。急所をピンポイントで突けば、屈強な男といえど戦えなくなる。わっちは、それを徹底的に百華に叩き込んだ。でなくば、どのチームにも媚びることなくチームをやってはゆけぬから。

現在の戦況はほぼ互角、しかし、数の上では圧倒的に夜兎が多い。時間が経てば、数の差というものは重くのしかかってくる。短期で終わらせるには、一つしかありんせん。それは大将の一本釣りじゃった。

わっちは神楽を捜し求めた。邪魔をするものは薙ぎ倒しながら、前へ前へと進んでいった。そして、橙色の髪が見えた。
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