書庫(長編)
□其ノ肆
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それから数日後、わっちは銀時の姿をよく見かける甘味処で待ち構えていた。本当に銀時は来るのだろうか、もし来たとしてどう声をかければいいのじゃろう。
往来を行き来する人々。わっちは銀時を見落とさぬように見続けてきた。あの銀色の髪じゃ、見落とすことはないじゃろうが。そして、見つけた。あの銀色の髪、整っていない天然パーマの頭。間違いない、そう思ってわっちは銀時の側に駆け寄った。
(じゃが、何と声をかければよい?『よう、元気してたか?』とか『あのときはどうも』とかか?じゃが、覚えてなかったらどうすれば・・・わっちが恥をかいてしまい。ええい、もう行くしかない)
わっちはありったけの勇気を振り絞って、銀時の背中をトントンと叩いた。
「ええと、坂田金時君ですか?私、あなたに助けられて、お礼をしたいなあ、なんて思ったりする一人の女子なんですけどぉ。いかがですかぁ?キャッ、言っちゃった。恥ずかしいけど、勇気を振り絞って言っちゃった。ああ、どうしたらいいの?ドキドキ・・・」
とっさというか、テンパっておったというか。この時のわっちは今まで生きておった中で、ダントツに恥ずかしかった。
(死にたい、そこらの側溝に頭をぶつけて何事もなく忘れ去ってほしい。何じゃ、あの猫なで声は?あれはわっちか?わっちじゃったのか?)
「んあ、おたくは誰?」
そう言って銀時は振り返った。間違いなく銀時じゃった。向かい合ったときには、恥ずかしさとかも消えておった。
「久しぶりじゃな。探したぞ、受けた恩は返すのが礼儀じゃからの」
「それはまあ、ご丁寧なことで。で、あんた、さっき俺の名前、何て言ってた?」
「え?坂田、金時」
「いいか、俺は金時じゃねえ。銀時だ!坂田銀時、言いか?坂田銀時!大事な事だから、二回言ったからな。二度と間違えるんじゃねえぞ」
「それはすまなんだ。ぬしはあの時言うておったな。“また会ったら、パフェでもおごってくれ”と。その約束、今果たそうと思うてな」
「へえ、戯れに言ったのを覚えてたんだな。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかね。じゃあ、俺の好きなトコで食べたいんだけど、それでいいか?」
「うむ。それで構いはしんせん」
まともに銀時と話したのは、これが初めてじゃった。今でもはっきりと覚えておりんす。今から思えば、何であのように緊張しておったのか、馬鹿馬鹿しく思うておるが、このときからわっちと銀時の物語は始まったのかもしれぬ。
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