書庫(長編)

□其ノ弐
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「銀時」

「ん?どうした?」

「時々、わっちは不安になってしまう。このような穏やかなときが今は非常に愛おしい。じゃからこそ、これが失われてしまうのが恐いんじゃ」

「なくなりゃしねえさ。吉原の皆がいるじゃねえか。皆、この幸せを守るために戦うさ。紅蜘蛛党の時もそうだったろ?あと、俺たちも戦うから」

「銀時、よいのか?ぬしらに迷惑をかけてしまいんす」


坂田銀時はコツンと月詠の頭を軽く小突いた。ニヤリと笑ったその表情は柔らかく、そして優しくて月詠の心を解きほぐしていく。



「迷惑になんて、思うなよ。迷惑だなんて思っちゃいねえからさ。お前はギリギリにならないと救いを求めねえからな。ギリギリの1歩手前、いやお前の場合、5歩くらいか?それぐらいになったら、俺らに相談しろよ」

「ふふふ、まったく。わかった、そうさせてもらいんす。じゃがの、くれぐれも甘いものには気をつけなんし。救ってもらいたいとき、ぬしが糖尿病で入院してしまってはそうしようもない」

「へえへえ、気をつけますよ。で、今日さあ、泊まっていってもいい?」


銀時の問いに、月詠は一瞬固まってしまった。二人はそれなりに男女の関係ではあるのだが、月詠は未だに気恥ずかしさを感じているようだった。月詠は銀時の着流しをキュッと軽く掴んで、小さくコクンと頷いた。

銀時は顔を月詠の顔に近づけた。それを察した月詠はゆっくりと瞳を閉じた。唇と唇との距離がだんだんと縮まっていく。そんなとき、部屋の向こうから声がした。


「頭、火急の事態です。すぐにお出まし願います」


それを聞いた月詠は、すぐさま銀時から体を離した。


「わかった。すぐに参る。『ひのや』の前で待っておれ」


月詠は身支度を済ませると、呆然としている銀時に向かって言った。

「すまぬ銀時。もしかしたら、長くかかってしまうかもしれぬ。じゃから、今日は地上に戻ってくんなんし。この埋め合わせはいずれするから」


言い終わると、月詠は部屋を立ち去っていく。月詠の部屋には、先ほどまでの甘い雰囲気が一瞬で崩されて呆気に取られた銀時が残された。

部屋から出た月詠は、先ほどまでの表情とは違い、百華の頭領としての顔に変わっていた。待っていたのは百華の徳曼であった。


「いかがした?こうしてぬしが来るということは、何か重大事があったのじゃな」

「はい、雪乃が殺されました。見回り中の際、何者かに殺されたとのことです」

「何故じゃ、二人一組にて見回りは行っておるじゃろう。もう一人の者は何をしておったのじゃ。一人が殺されれば、もう一人がそれに対するものじゃろうに」

「それは十分に存じています。しかし、それが出来なかったそうです。詳しくは番所にて」
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