書庫(長編)
□其ノ弐
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百華の番所についた月詠らは、まず殺された雪乃の遺体を確認した。月詠は遺体に手を合わせて、死者への冥福を祈った。それが終わると、月詠は百華の者らに事情を問うた。
「死因は?」
「心臓を刺されたことによるショック死とのことです」
「そうか、では事情を聞くとしよう。皆を集めてくれ」
そして、百華の面々が集まった(見回りの者らは除く)。皆が集まったところで、月詠は口を開いた。
「まずは雪乃の冥福を祈るため、黙祷を捧げる。皆の者、黙祷!」
百華の者らは目を閉じて、雪乃に対する黙祷を行った。静寂が部屋を支配する。
「黙祷、止め!」
月詠は黙祷のあとに、蓮果を呼び出した。そして、事情を聞きだすために説明することを求めた。
「蓮果、辛いじゃろうが、雪乃の様子を皆に伝えてはくれぬか?」
「は、はい。私と雪乃は共に市中の見回りに出かけていました。いつものように、お客や攘夷志士らでごった返しており、異常は見受けられませんでした。そんな中、一人の攘夷志士らしきものが私らの前を歩いていました。特に何かをする素振りもなく、問題ないとして無視していました」
蓮果は時折、涙声になりながら話していた。悲しみをこらえつつ、気丈にも事情を話している姿を見るのは辛すぎる。しかし、百華を統べるものとして見届けなければならない。
「そして、その男とは普通に通り過ぎました。そのときも雪乃の様子には変化はありませんでした。普通に数歩歩いたあと、急に雪乃が前に倒れて」
死のところまで話が及ぶと、蓮果は抑えていた感情を止められなくなった。
「ひっ、ううぅぅぅ、雪乃はぁ、全然、目も開けてくれなくて。呼びかけても、返事もしてくれなくて!雪乃ぉぉ、ううう、ああぁぁ」
「もうよい。下がって休め。よく話してくれた。今はゆっくりと休んでおくがよい」
蓮果を下がらせたあと、月詠は皆に問うた。
「どう思う?蓮果が気付かぬうちに、雪乃が殺されたというのは」
「遺体を見ると、心臓を一突きに突いていました。心臓の位置を正確にするなど、並大抵の芸当ではありません」
「蓮果の話を聞けば、雪乃はもしかしたら死んだという意識はなかったのでは?」
「うむ。相当な手練れのようじゃな。蓮果が気付いておらぬならば、周りの者らはこれを殺しとは思うまい。とはいえ、わからぬ点が多すぎる。まずは情報を集めよ。そして、見回りに際しては細心の注意を払え。見落とすことのないように」
月詠は現時点で打てる最善策を示した。しかし、百華を襲ったこの事件は終わることなく続いていくのであった。