書庫(長編)
□其ノ参
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晴太が対応している間に日輪がやってきた。男は晴太とにこやかに談笑していた。日輪の姿を認めると、男は軽く会釈する。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」
「はは。いやあ、吉原に来るのは初めてなんでね。どうせ遊ぶなら、間違いのない店で遊びたいから、聞きに来まして。ここのオススメは外れがないと巷で聞いたもんで」
「それはそれは、どうもありがとうございます。お客様のご希望に沿えるよう、ご案内させていただきます」
しばらく、日輪と男はあれこれと話し合った。その間に、坂田銀時らと月詠も店内に出てきた。男は月詠の姿を見ると、日輪に尋ねた。
「へえ、この娘も座敷とかに上がるので?」
「いえ、この娘は残念ながら座敷には上がりませんの。吉原の自警団を勤めていますので」
「月詠でありんす。どうぞよしなに」
「おお、これって廓言葉ですねえ。いやいや、何か吉原に来たって感じするわあ」
物腰柔らかく接する態度に、ひのやの面々は好印象を抱いた。
「名乗っていただき、ありがとうございます。私は滝嶺綾人と申します」
男は自分の名前を名乗って、ペコリと頭を下げる。それにつられて、ひのやの面々も頭を下げる。銀時が綾人に話しかける。
「こんな真っ昼間からお盛んなことだねえ。吉原デビューかぁ」
「ちょっと、銀さん!」
「これ、銀時!お客様に失礼じゃろうが」
「はは、いいんです。噂に聞く吉原で遊ぶのを夢見てたんで。で、通りを歩いて気づいたんですが、人通りが少ないように思うんですが」
「まあ、ちょっと、吉原で一騒ぎがありまして。今、物騒な感じに」
「それは初耳。でも、自警団があるのなら解決してるはずでは?」
日輪が口をつぐんでいると、月詠が口を開いた。
「わっちらの不手際によって、お客人には大変なご迷惑をかけておりんす。わっちら百華も全力を上げて、事態の収拾に努めるゆえ、しばらくは我慢してもらいたい」
「ここまで客足が遠のいたのは、騒動がまったく収まってないんでしょう。何のための自警団ですか?何の手も打てていないという事では?」
「その言葉には返す言葉がない。ご迷惑をかけておりんす。一刻も早く事態の正常化に向けて」
「おいあんた!それはちっと言い過ぎじゃねえか」
「吉原の治安を守るのが自警団の役目。だとすれば、治安が乱れれば責任を問われるのは自警団でしょう。追求されるのが嫌なら、自警団など解散して、地上の警察などに頼めばいい」
「やめなんし銀時。言われる通りじゃ。わっちらが不甲斐ないばかりに」