書庫(長編)
□其ノ参
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月詠は深々と頭を下げた。そんな月詠の視界に、綾人が持っている長物が目に入った。これを見た月詠は、はっと思い出した。殺害実行犯は長物を手にした男。月詠は綾人の長物に手をかけた。思わず綾人は長物をギュッと強く握り締める。
「何をするんですか?」
「すまぬ。少し、その長物について調べたいんじゃが、よろしいか?」
「月詠!何してんの、お客様に失礼なことするんじゃないよ!」
綾人は手にした長物をすんなりと手放した。月詠を見やると、綾人は笑みを浮かべながら言った。
「日輪さん、大丈夫ですよ。気にしてないから。月詠さん、疑わしいなら調べてくださいな」
月詠は袋を下ろした。現れたのは日本刀だった。月詠は思わず、警戒の視線を綾人に向けた。
「ぬし、これはどのような」
「何だかんだと物騒ですからね。自分の身は自分で守らねば」
「結構な年代物ですね」
「そう見えます?まあ、護身用ですんで」
月詠は刀を手に取ると、ひととおり外観を見回した。普通の刀に比べると、その刀は長く作られていた。それ以外に特異な点は見当たらなかった。しかし、月詠はある点について綾人に問いただした。
「滝嶺殿、鞘から刀が抜けぬが?」
「あ、これは模造刀なんで。身を護るくらいならこれで十分だし」
「ツッキー、この人は大丈夫アル。こんな優しい人を疑うのはおかしいアルヨ。それに初めてここへ来たって言ってるし、問題ないアル」
「そう、じゃな。すまぬ、滝嶺殿、変な疑いをかけてしまった」
「いやいや、お気になさらず。疑わしい物を持っていれば仕方ないし」
「申し訳ありません。お詫びと言えないかもしれませんが、これを持っていってくださいな」
日輪は一枚の紙を綾人に渡した。怪訝に思った綾人は、日輪に尋ねた。
「日輪さん、これは?」
「これを先ほどご紹介した店に見せてください。今回は無料にてお楽しみいただくよう、させていただきますので」
「え、いいんですか?」
「気を悪くされたでしょうし、初めての吉原を楽しく過ごしてもらいたいので」
「そうですか・・・では、遠慮なく受け取らせてもらいます。月詠さん、お疑いは晴れましたか?」
「う、うむ。気を悪くさせてしまったのなら許してほしい。初めての吉原、楽しんでもらいたい」
綾人はすっくと立ち上がると、店を後にする。出る前に、綾人は振り返って月詠に問うた。