書庫(長編)

□其ノ壱
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「銀ちゃん、これ飲むアル。銀ちゃん死んだら、私、万事屋にずっと寄生できないアル」

「サラッと嫌なこと言ったよね。俺の体より、お前が寄生するってのが問題だっての!」


神楽が手渡したのは、乳酸菌飲料“スルスル”である。渋々と銀時はスルスルを口にした。

スルスルが体内に入ったことは、直ちに善玉菌が知ることとなった。


「よし、これなら悪玉菌を押し返せる。形勢逆転と行こうぜ」

「ここまで届くかどうか。腸内に行くその前に、あれを乗り越えられるかどうか」

「“死海”か」


善玉菌が死海と呼ぶ箇所。一般的には胃液と呼ばれている。栄養分が腸内へ行く最大の障壁である。その頃、スルスルに含まれた乳酸菌は腸内へ向かって進んでいた。イメージキャラクターは新八である。彼の姿を想像しながら、読み進んでほしい。


「善玉菌を助けるんだ。急いで腸内へ!」


そんな乳酸菌に立ちはだかる死の海。穏やかな海面は一見すれば何て事ないたたずまいである。しかし、乳酸菌たちは感じ取っていた。最大の障壁は間違いなくここであると。


ここで立ち止まってはいられない。意を決して、乳酸菌たちは胃液の中へ飛び込んだ。対岸まではかなりの距離がある。群れをなして、乳酸菌たちは胃液の中を進んでいく。そんな乳酸菌を何者かが阻んだ。

それは胃液の精であった。イメージキャラクターは長谷川泰三である。


「そんな気張ってないでさ、ゆっくりしてってよ。この海の中は、気持ちいいんだぜ」

「何言ってんだよ。腸内じゃ僕たちが来るのを待っているんだ。一刻も早く駆けつけないと」

「その気持ちは聞いてて、すげえなって思うけどさ。お前さんじゃ渡れねえよ、この海を。現にあんたの体、ここに溶け込んでるぜ」


長谷川の言葉を示すように、乳酸菌の体が徐々に溶けていく。乳酸菌たちがこの事態に混乱する中、長谷川は語りかけた。


「胃液を甘く見ねえこったな。あ、もう手遅れだけどな。俺の姿を見たら、3千の俺がいると思えってことわざ、聞いてなかった?そうか、もうこっちに溶け込むんだし、関係ねえのか」

「そんなことわざ、聞いたことあるかああぁぁ!!ヤバイ、このままじゃあ。くうっ、乳酸菌最大パワー!」


乳酸菌は力を振り絞って、この事態を脱しようとするが、乳酸菌の身は溶けていく。やがて、乳酸菌は胃液の中に溶け込んでいった。胃液のそこかしこで、この光景が見られた。

中には胃液を乗り越えて、腸内に届いた乳酸菌もいた。しかし、その数は数百にまで減少していた。
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