書庫(長編)

□其ノ伍
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銀時は待ちわびたように、注文の品を自分のほうへ引き寄せる。甘味が到着したときの銀時は、子供のように目を輝かせておった。本当にこの男が、近隣の不良どもに恐れられておるのかと疑いたくなる。


「じゃあ、ゴチになります」

「ああ、存分に食べてくんなんし」


銀時はスプーンを手に取ると、パフェをすくい取って口のなかに入れる。銀時の目がだんだんと垂れてくる。わっちはその光景を眺めつつ、銀時に話しかけた。


「ぬしは西高の番格らしいではないか。しかも、近隣に名が知れた強者だとか」

「へえ、そいつはまた、よくご存知で」

「失礼だとは思ったが、調べてもらいんした。やはり、助けてもらった恩義があるでの」

「調べた結果が金時ってわけか。調べが甘えだろ。甘いのはパフェだけでいいんだって」

「すまぬ。名前を間違えるなど、本当に失礼なことをした。許してもらいたい」

「いいよ、次は間違わないようにな。西高の番つっても、俺はそんなのになったつもりはねえよ。周りの奴等が勝手に祭り上げてるだけだ」

「とはいえ、名は知れ渡っておりんす」

「まあ、髪ネタから始まったな。『お前の髪の色は何だ』とか『何染めて来てんだ』とかな。面倒だから、文句言ってる奴等をぶっ飛ばしてたら、てっぺんまで行き着いてたってわけ」


大した感慨もなさそうに、銀時は淡々と話を続ける。少しの沈黙のあと、銀時は口を開いた。


「お前、小さい頃に色街へ来たって言ってたな」

「うむ。そうじゃが」

「俺は生まれた時から一人だった。物心ついたときは、周りには俺と同じ境遇の奴等がたくさんいた。それが当たり前だと思ってて、過ごしていたんだ。そんなとき、仲良さそうに遊んでいる親子連れがいたわけよ。軽くショックだったなあ」


銀時はそう言って、話を続けていく。ただ、話をしている内容と話しておる姿の滑稽さに、わっちは内心微笑ましく思った。話が進むうち、ある思いが生まれておった。わっちと銀時は似ているのではないのかと。


「そこで俺は知ったのさ。俺らは普通じゃなかったんだとな。何だか頭がパーンってなっちまって、そこからは訳も分からず、暴れまくってた。暴れたとこで答えなんてねえんだけど、暴れずにはいられなかった」

「ぬし、そのような境遇であったとは。わっちも色街に行ったばかりのときは、何もかもに絶望しておりんした。わっちを捨てた親たちにも、そして先が見えないわっち自身にも。じゃが、母親代わりをしてくれた者が優しく接してくれたから、わっちは生きる希望を持てたのじゃ」

「俺もな、いたんだよ。お前の母親代わりみてえな人が。あ、父親か?いや、違うなあ。まあ、その人がいたからこそ、あと一歩のところで踏みとどまれた。いなかったら、どうなってたんだろうかな。チンピラみてえに弾け飛んでオシマイだろうな。癇癪玉みてえに。まあ、今、この世にはいねえけど」
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