書庫(長編)

□其ノ玖
1ページ/4ページ

建物が赤々と燃えている。ぱちぱちと音を立て、火が建物に絡みつくように広がっていく。その様を目の当たりにしている一人の少年がいた。

叫んでも火の勢いは止まらない。やがて炎が建物を蹂躙しつくした。崩れ落ちる建物を、ただ少年は見ているしかなかった。その建物は少年にとって、学び舎であり、かけがえのない思い出が詰まった大事な場所であった。それを守ることができなかった。その中にいる大事な人を守れなかった。自分の無力さに少年は涙した。少年の名は坂田銀時。のちの攘夷戦争にて“白夜叉”と恐れられることになる男である。


「銀時、おい銀時!」

「え、ああ。何だよヅラ」

「ヅラじゃない、桂だ」


桂小太郎の呼びかけで銀時は、はっと我に帰った。ここは江戸のとある居酒屋である。ここに顔を合わせているのは、銀時と桂、高杉晋助と鳥尾小耶太の四人であった。


「銀時、何ボーッとしてんだ。ボケるにはまだ早いだろうが」

「晋助、そう言うな。銀時はおそらく糖分不足だっちゃ。まあ、こげな居酒屋にゃあ甘味なんてないけえの」

「苺もないからな、小耶太」

「ヅラちゃん、知っとるっちゃあ。そげな事は」

「ヅラじゃない、桂だ。で、どうするのだ。我々の行く道については」


桂は話題を変えた。元々はその話題について話すつもりだったのだが。ようやく本題について触れることができた。


「最近、攘夷派の凋落が著しい。幕府は開国派が幅を利かせ、攘夷戦争にしてももはや攘夷側の劣勢は決定的だ。無論、我々は天人たちの暴虐を許すわけにはいかん。だが普通に攘夷活動をしていても意味はない。世にいる攘夷派を奮わせるような衝撃を起こしたいと思うのだが、皆の意見を聞きたい」

「じゃあ、あれか?うちらが散らばって、同時に天人たちを殺せばどうじゃ?」

「何人殺せばいいんだ?だったら、普通に攘夷戦争に加わればいいことじゃねえか。周りくどいことする必要はねえし、余裕もねえ。殺したいなら、さっさと戦争に参加すればいいだろ」

「晋助の話はもっともだ。いずれは攘夷戦争に参加し、天人たちと戦うことになるだろう。しかし、我々は松陽先生門下の者だ。それ相応の手土産をもって、攘夷活動の嚆矢としたい。だから攘夷派、いや、世間を驚かせる大きな大事を成したいのだ」

「おい、銀時。さっきからボーッとしてんだけど大丈夫か?お前も何か言えよ」


晋助が銀時に発言を促した。銀時は天井を見上げた。かと言って、何か浮かぶわけでもない。しばし見上げて考えては見たものの、やはり考え付かなかった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ