書庫(長編)

□其ノ玖
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「あ〜、俺パスで。思いつかねえわ。お前らで決めてくれや。それに乗っかるって形で行くからさ」

「銀時!お前はもっと真剣に考えんか!」

「まあ待て、桂。銀時は糖分が足りんけえ、頭が回らんのじゃ。いや、糖分あっても基本回ってないか」

「何だと、てめえ!やるってのか」

「おおよ、やってやるか。表出れや」

「おいおい、止めとけ。ただでさえ、人数少ねえんだから」


晋助が二人を諌めた。


「で、実際どうすんだよ。お前が言うようにデカイ大事って言っても、人数は現在4人しかいねえし。大したことは出来ねえだろう。やっぱり、さっさと攘夷派に合流しちまったほうがいいんじゃねえか」

「だったらてめえの実家に言って、金出してもらったらどうよ?したら、けっこうな手土産持っていけんじゃね?」

「実家と俺は別問題だ。巻き込みたくねえ。仮にそれやっちまったら、俺らはいい金ヅルにしか思われねえよ。ナメられて終わりだ」

「なあヅラ。大きな手土産っていうとアレか。攘夷戦争初期、天人の艦船に単身乗り込み、徒手空拳でヤツらを倒したっていう“白ふんの西郷”みてえな感じか?」


銀時が言っていた話は、天人襲来時の西郷特盛の武勇伝である。この武勇伝は攘夷に賛同する者らは全て知っていた。この話が広く伝わり、攘夷の炎を燃え上がらせるきっかけとなっていた。


「そうだ。それくらいの衝撃を与えねば、皆を奮い立たせることなど出来ぬからな。西郷殿は一人でそれを成し得た。我らは四人。出来ぬことはないだろう。あとは何をしたらよいか、それが分かればいいのだが」


四人はしばらく黙りこくり、机に並べてある料理に手をつけた。居酒屋の店内はごった返しており、様々な話が飛び交っている。下卑た話や愚痴話まで、あらゆる話が出ては消えていく。そんな中、四人が耳を傾けた話があった。


「おい、見たかよ。品河にある天人領事館“a・ma・to”の話をよ。えらく豪勢な造りしてんじゃねえか」

「あ、あそこは領事館って言ってるが、その実は娼館という噂だぜ」

「幕府に建てさせて、秘かに下僕として民衆をそこで働かせてるらしいじゃねえか。領事館なんて名ばかりで、あそこで天人のお偉い方が毎日毎夜、お楽しみらしいとよ」

「ふざけてやがんな。何とかならねえのかよ」

「何とかって言ってもなあ・・・あそこには屈強な護衛が何十人といるんだぜ。手出しができるわけがねえ。とはいえ、問題は下僕で働かされているヤツらのことよ。何されてんのか、分かったもんじゃねえ」


話を聞いて、最初に憤りを露にしたのは桂だった。
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