涙の青春

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―俺が、泣かせた―


走り去った神崎の背中を見て、瞬時にそう思った。

やはり、駄目だった。隠し通せなかった。
クラス名簿を見た時点で、瞬時に覚えた名前。

忘れるはずか無い。俺が生涯でたった1人、愛した女性の名前と同じだった。


―神崎咲羅―

間違えてはいけない。

咲羅は、死んだんだ。俺の目の前で、


みんな他の生徒と同じように平等に接していけば良い。

深く関わらなければ大丈夫。


そう心に決め、教室のドアを開けた1日目。


神崎からの突然の告白。


それから何度神崎が現れようとも、俺は相手にしなかった。

いや、相手にするのが怖かった。


咲羅と同じ名前の、俺と咲羅が付き合い始めた時の年齢の女と、

無意識に比べてしまうのが怖かった。


俺はもう二度と人を愛さないつもりだ。

俺の人生全てを捧げて、咲羅に償いをしようと思う。そう、決めたんだ。



「俺、教師辞めようかな……」

「そりゃぁ、ちょっと困るかな」

「はぁっ!?てめぇいきなり出てくんじゃねぇ!!」



独り言を言ったはずなのに思いがけない返事が返ってきた。


「あいつ、泣いてたぜ」

「あぁ……」

「……ついにやったか」

「あぁ……最低だ。」


間違えない自信は無かった。だからわざと冷たくしたんだ。

「アイツにな、全部話したわ」

「…………なんて言ってた」


俺への非難か、それなら良い。いくらでも言え

俺はそれほど重要な過ちを犯したんだ。


「『勝てねぇ』ってさ」

「はぁ?」

「アイツはお前も咲羅も非難してないよ。ただ自分を責めてた」


―なんで、どうしてみんな―


「俺を、俺を責めないんだよ!!!!」


咲羅だって、俺を責めなかった。

神崎も、なんで責めない?


「愛されてんな、お前」

「…………、」

「素直になれよ」

「俺は、どうすれば良い。咲羅にどう詫びれば良いんだよ」

「取り敢えず、お前の口から全部話してやれよ。本当の気持ちを」

「あぁ……」


俺が銀八に背を向けた瞬間、

全校に放送が響いた―


―土方先生、神崎咲羅、至急校長室まで来なさい―







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