未来日記

□08
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咲羅が入院して、数日が経った。

今日も俺はいつものように、病室へ来ていた。

今日は新しいプリンを買った。

あいつは喜ぶだろうか。

きっと喜んでくれるだろう

あいつの笑顔を思い浮かべ、少し頬が熱くなる。

慌てて首を左右に振り、病室のドアを数回叩いた。

 はい と咲羅の声が返ってきた。

俺はドアを開けた。いつものように。


咲羅は真っ白な病室のベッドの上にいて、上半身だけを起こしていた。

咲羅の綺麗な瞳が俺を見つめる。

 あの…… 咲羅は俺から目を反らさずに言った。

そう、確かに言った。

「貴方、病室を間違えていませんか?」


体温が一瞬で奪われた気がした。

咲羅は俺を見て、そう言ったのだ。

分かっていた。こうなるのではないかということを。

だが、実際になってみると、心が張り裂けそうになるほど痛い。

「……、っ」

小さく息が止まる。視線を合わせる事が出来ない。


 あの、 と咲羅は心配そうな顔をする。いや、ここにいるのは咲羅ではない。俺が知っている咲羅では無いのだ。

「あの、もしかして具合悪いんですか?貴方、とても辛そうな顔をしている。」

そう声をかけてきた咲羅はもう咲羅では無く、ただの少女だ。

「大丈、夫だ。すまねぇな」

少女は不思議そうな顔をしていたが、

「……もしかして、私達、知り合いなの?」

と質問をする。


ズキリ、その質問が一番辛い。

俺は あぁ としか言えなかった。

「咲羅、覚えていないか?俺達去年図書館で会ったんだぜ」

「―私図書館なんかに行ってたの?」

「……咲羅、覚えていないか?俺達は一回喧嘩したんだぜ?」

「―けんか?私が悪かったの?」

「…………咲羅、覚えていないか?俺達最近まで、兄妹だったんだぜ?」

「―兄妹?じゃあ貴方がお兄さんなんですか?」


―あと少し。これだけ言わせてくれ―


「咲羅、覚えていないか?」

これだけは、言いたいんだ。

「俺は、咲羅が好きだったんだぜ。ずっと」


 ごめんなさい と少女は謝った。


「貴方、誰ですか?さっきから兄妹とか、好きとか……」
 ……っ、 泣くな。今泣いたら全てがお仕舞いだ。

笑え、笑うんだ。

泣きそうな気持ちを全て噛み殺し、飲み込んだ。

飲み込んだまま、笑う。完璧な笑みとはほど遠い、ボロボロの笑顔で、笑う。

「なんでもねぇ。さっきの事は忘れてくれ。これ、見舞いのプリンだ。冷蔵庫にいれとくから、後で食べろよ。」


早口で言ったから少女に聞こえているか分からない。


俺は素早く後ろを向いた。


―泣いているのを、見られたく無かったから―






俺は再びドアに手をかけた。

 

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