romanzo

□la sorpresa(TOV レイユリ)
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来年もその次の年も、ずっとずっとこの日を祝っていきたい…そう思える記念日をこれからもっと増やしていけるような予感がしない?





ドアの外からタンタンと軽快に登ってくる足音が聞こえて、わんこ同様耳をそばだてる。あああなんか柄にも無く緊張してちゃってないコレ!?どうしようね、と隣を見るといい加減腹括れよと言わんばかりの鼻息が返ってきた。ったく、飼い主に似てカッコイイんだから。

「ラピード、留守番サンキュ…」

「おっかえりー青年!」

「ゥワフ!!」

とにかく色々悟られないように、ごく自然に出迎える。青年は結構勘の鋭い方だけど、演技力なら長年鍛えてあるんだから…なんだか悲しくなるような理由で自分を鼓舞し、平常心を心掛けた。

「なんだよ、人のうち勝手に入んなって何度言ったら…」

「おじゃましてまっす」

「よしよし。ってやけに素直だな?」

何かあるのではと訝しむ彼を慌てて宥め、自分のおごりで食事に行こうと提案する。共に青年に頭を撫でられているラピードに、せいぜい気張ってこいよと尻尾で背中を叩かれた。





ドアベルが夕闇に響いて、店内の明かりが暖かく迎えてくれる。窓際のテーブル席に着くと主人が奥から顔を出した。

「いらっしゃい!しっかりな!!」

「ん!んーあんがとー!じゃあ言っといたのよろしく!!」

「へぇ…予約なんてしてたのか?」

「ま…ぁね。」

小さなテーブル席に案内され店主が厨房に入ると、奥からテキパキ指示を出す声や調理の音が聞こえてくる。賑やかになった奥とは逆に店内は二人きりになった。いつもは活気のある店だけに、青年は視線を動かして落ち着かないようだ。

「あ、あー青年!なんか音楽聞こえなーい?」

美しい演奏…とは言い難いが、しかし努力の様子が目に浮かぶようなメロディが何処からかBGMのように聞こえてくる。

「ん?あぁ…あいつらまた練習してやがるな」

「え!!知ってんの?」

「ん?あーなんか今度帝都市街でコンテストがあるから下町代表で出るんだとさ。」

そういう事になっているのか。一瞬ひやりとさせられたが、青年の表情を見て胸を撫で下ろした。昔やってたにしては下手くそだよなぁと頬杖をついた彼は、心地良さそうな笑顔を浮かべている。後は食事をしながらタイミングをみて…もう全て自分次第だ。いつもよりやけに喉の渇きを感じてグラスの水をあおった。





「ごちそうさまっと。」

「ごちそうさまー…」

「…それにしてもどうしたんだよ?俺、別に誕生日とかじゃねーぞ?」

「え?あーっと…」

こういう時にビシッと決められる男でありたい…そんな気持ちとは裏腹になかなか本題には切り出せずにいた。青年の前に並ぶ二人分のデザート皿は綺麗に平らげられているというのに、当たり障りのない会話を繰り返してしまう。そもそも自分に決断力というものがあれば、今日までずるずると引き延ばされる事も無かったのだけれど。決断したら即行動という性格をちょっとでいいから今のおっさんに分けてちょーだいよ…!そんな願いも虚しく痺れを切らした彼が立ち上がった。

「…ったく、しょうがねぇなー。ここじゃ話せないってんなら場所変えて…」

ガタガタ!!と突然大きな音が店の奥から聞こえ、気を取られた青年の動きが止まる。ああ!きっとこれがラストチャンス!!



「ユーリ!」

「は!?」

「おっさんと…俺と結婚しよう!!」



「言った!!」

「バカっ!声デカいわよっ!!」

派手にドアの開く音がして店の奥から転がり出てきたのは見知ったいつものメンバーだった。彼らの後ろには店の主人をはじめそわそわした下町の皆が、頭を隠したりお尻を隠せていなかったり。

「あーっ!もー!!リタのせいだからね!!」

「急に叫んだガキんちょが悪いんでしょ!!」

「二人ともどっちもどっちじゃ。」

「そうね。いずれこうなる予定だったのだもの。それより早く彼に説明してあげたら?」

じゃあ私達が説明しますね、そう言ってエステルと申し訳なさそうなフレンが出て来たが、それを制止する。

「ごめん、自分で話すわ…」

発端はひと月ほど前の事、自分が下町のこの店で珍しく記憶を無くすまで酔った時、どうも店主に青年との恋仲をぶちまけ、あまつ結婚したいと暴露したらしいのだ。噂は小さな町を駆け巡り、それを騎士団で耳にした幼なじみが真意の程を姫君に問うべくほのめかしたのが最後、下町の住人だけでなくブレイブヴェスペリアをも巻き込んだ一大プロジェクトとなってしまった。ええと、名付けて…なんだっけ?

「ラブラブ明星カップル☆プロポーズ大作戦!!です!」

カロルが名付けてくれたんです、ちゃんと覚えてくださいね!と、エステルが目をきらきらさせながら話の締めを引き取り、自分は頭を抱えテーブルに突っ伏すしかやりようがなかった。引っ込みが着かなくなったとはいえ、大切な事をこんな形で言うことになるなんて。しかも青年を騙すような事して…きっとショックだったに違いない。っていうかみんな終わったような雰囲気になってるけど、おっさんまだ青年の返事聞いてないんだからね!!



「…おっさん、」

一通り話を聞き終えて事態を飲み込めたのか、青年がゆらりと自分の前に立つ気配を感じ恐る恐る顔を上げる。俯く彼の顔は照明の影になって表情が読めず、怒っているのかどうかもうかがえない。

「あのさ…」
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