romanzo
□Buon appetito!(ツバサ 黒ファイ)
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「おはようございます、ファイさん。」
先に起きていたのに、早起きですねと声をかけてくる所がなんだか彼らしい。話を聞くと、今日も朝から剣の稽古をつけてもらっていたそうだ。身体の見えるところだけでもたくさんの擦り傷を作り、この国にきて新しく購入した学生用の服にもいくつか綻びを作っている。朝から頑張るねと声をかけると、早く強くなりたいですからと笑顔を見せ、着替えの為に自室に戻って行った。
彼には精のつくものを食べさせてあげたい。けれど朝だからなるべく重すぎないものを…クラブハウスサンドならバランスもとれるかな。作り置いて破けた服を出しておくようにメモを添えておこう。
しばらくすると慌てた駆け足が聞こえて、寝癖をつけた姫君がモコナを頭に乗せ顔を出した。
「ごめんなさい!私今日こそは早起きしようと思ったのに!!」
「ファイ、サクラいっぱい頑張ってるよ!モコナずーっと時計見てたけど、昨日より15分も早くなったの!!」
ほほえましくてつい笑いそうになるのを堪えながら、とりあえずこれでもどうぞと出したのはホットミルク。彼女達は甘いものが大好きだから、砂糖は多めに入れてある。朝食には先日仕入れたマフィンというパンを試してもらおう。薄く2つに切って焼いたものにバターを塗り、一枚はハチミツ、もう一枚にはハムエッグを乗せる。サラダの代わりに兎に見立てたりんごも切って皿に添えた。
「じゃあオレはちょっと出掛けてくるから、サクラちゃんとモコナで留守番よろしくね。」
小狼君の朝食を持って行ってもらうよう言付けて、気持ちのよい返事を背中に受ける。手にふた付きのバスケットを抱えて店を出ると、いつの間にか早足になっていた。
「いたいた!黒わんわーん!!」
「!!…だーからその名前で呼ぶなっつーんだ!!」
いつもの河川敷で稽古をつけた後、刀の手入れをするのが彼の日課だ。怒鳴り声と一緒に眉間にシワを寄せて睨んでくる。むしろこちらはそんな反応を期待してやっているなんて、彼は気付いているのだろうか。
土手に二人腰掛け、持ってきたバスケットを開ける。おにぎりとおつけものと、ポットの中にはおみそ汁。以前モコナにお願いして次元の魔女さんに教えてもらった日本国のレシピだけど、彼の国の食べ物はみんな「お」からはじまるのかな?そう聞くと、自分はつけない事の方が多いと言われて益々頭が混乱した。…おみそ汁が冷めちゃうから、まぁいいか。
「じゃあ一つ貰うぞ…」
「あー!待って待って!!食べる前に、」
どうしても君と言いたいことがある。作っている間別メニューの誘惑を退け、つまみ食いを味見程度にしておけるのも、この喜びがあるからだ。別々の国にいる時ならまだしも、せっかく同じ時間をすごしているのだから…これ位の幸せなら許してもらえるよね。
「ハイ、にっこり笑ってー、せぇのっ!!」
『いただきます!』
次頁あとがきです。