romanzo
□mimosa(TOV レイユリ)
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何処からか明るい音楽が奏でられ、下町の広場には珍しく大勢の人間が集まっている。この地域の風習だろうか、人だかりの中心では頭に花飾りを付けた子供達が、代わる代わるに踊っていく。リズミカルに踏まれるステップはとても陽気で、まだ寒さの残る夕暮れに春を呼ぶようだった。
小さな無数の黄色い花は生花のようで、子供達の動きに揺れてはぽろぽろと零れ落ちていった。花は光のなかで、まるで黄金のようにきらめいては散っていく。
まだ見ていたいと思う気持ちを、警備の交代という職務が押し込めようとした、そのときだった。
たたん、たん、
その場にひょいと表れたのは美しい黒髪の少女。彼女は他の子供達同様に真っ白なワンピースを身につけ、しかし花飾りが髪の色によく映えて見えた。彼女はただ淡々と自分の役目を果たす様に舞っているが、それが逆に他と異質な空間を作り出しているように思える。少女が身を翻す度に白と黒が広がり、金色の粒が宙に舞う。
自分の見る世界が、連続写真のように遅くなる。一点に吸い寄せられる。
時が止まりそうだ。ぼんやりとそう思った。
「…おい、何やってる。」
同僚の言葉でやっと我に返る。目を奪われる、とはこういう事なのかと知った。止めていた歩みを進めて務めに戻ると、やはり時間は動き出して正直ホッとする。しかし、その姿はまるで目の裏に焼き付いてしまったかのように、忘れることの出来ない光景となった。
「…っていうのがレイヴンの忘れられない思い出の人なの??」
「そーよぉ。その時はまだシュヴァーンだったけどね。」
「なんだか素敵ですね。」
「そーお?なんか変態クサー。」
「相手は子供ですものね。」
「おっさんはウチみたいのが好みなのかの?」
「ちょと、人の思い出にケチつけないでよ〜」
「…なぁユーリ、それってもしかして…」
「…絶対に言うなよ。」
丁度よい年頃の少女の数が少なく、見栄えのする子供が男女問わずに借り出されていた事、そして例外なく少女の格好にされたことは、青年にとっては思い出すと懐かしく、くすぐったいものだったろう。
(ちょちょ〜っと人に聞けば、あの日の子が誰だったかなんて分かっちゃうもんなのよねぇ…)
酒場の各テーブルには、可愛らしい蕾の黄色い花が飾られている。いつもより店内を明るく感じるのはそのせいだろうか。落ちた花弁をそっとひとひら指先でつまむと、花の香りと共にあの日見た光景がよみがえる。
(「女性に」というのが習わしではあるけど…)
彼はミモザを受け取ってくれるだろうか…あの日の少女に抱いた、自分の気持ちごと。
次頁あとがきです。