romanzo

□il equivoco(TOV レイユリ)
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ギルドブレイブヴェスペリアの若き首領、カロル・カペル。彼は今、ものすごく困惑していた。



「………」

「………」

(なっ…何なの何なの二人とも!急にじいーっと睨み合っちゃって…!!)



いい年をした大人が二人、目の前で視線をぶつけ合い宿のベッドに腰掛けたまま微動だにしない。さっきまでこの街での食料調達だとか、次の街まで何日かかるだとか、普段と変わらない会話が続いていると思っていたのに。


「…………」

「…………」

(ううぅ…何なのさ…喧嘩?喧嘩なの??ボク仲裁とかしたほうがいいの…かなぁ…)


二人が黙りこんでから、もう何分経過しただろう。実際そんなに経っていないかもしれないけれど、こういう状況は場の空気がどんよりと重く、時間の流れも泥のように遅く感じるから、困ってしまう。

ごくり、と無意識に唾を飲み込む。オロオロしつつも二人をよく観察してみると、どちらかと言えばユーリの方がやや優勢だろうか。


レイヴンの額にはうっすら汗が見えそうで、どこと無く気圧されている感じがする。対するユーリは口許に笑みをたたえているにもかかわらず、まるで殺気でも放っているかのような迫力だ。


(…もしかして、乱闘でもするつもり!?こっここ宿屋だよ?部屋の中なんだよ??お願いだからそんなの外でやってよぉ…!!)


逃げるなら、 事が動いたその時だ。情けないことではあるが、これまでの経験上私的な争いには立ち入らない方がいいに決まっている。重大な被害や死者が出そうで無い限り、当人の気が済むまでやらせてそれから責任をとらせるというのが、カロルの見てきたギルド流のやり方だった。

張り詰めた雰囲気の中、カロルが自分の背中に嫌な汗が流れるのを感じた、その時だった。


「…………ハァ。」


レイヴンがため息と共に立ち上がり、ユーリが視線でその姿を追いかける。


(今だ!ここしかない!!)


「うぅわわわわわあああああああ!!」


お腹の底から叫び声を上げ、カロルは部屋から飛び出した。臆病者と言われてもこれだけは仕方が無い。だって二人の強さは、いつも戦闘で嫌という程目にしてているのだから。


「わああああああああ…」




カロルがどたばたと脱兎のごとく逃げ去って行く一方、問題の二人はそれをただポカンとして見送っていた。


「なっ…なんだなんだぁ?」

「さぁ…な。それよりおっさん!クレープ!!クレープさっさと作ってくれよ!!」

「わーかったわよぉ〜。全く、青年には敵わんわ。」


表情を一変させ、瞳を輝かせたユーリの頭をぽんぽんと撫で、レイヴンは部屋に備え付けられた簡易キッチンに向かった。ユーリは手をひらひら振って、満足気にベッドに寝そべった。恋人が作ってくれるおやつの支度の音に耳を立てながら、ふと、ついさっき走り去ったボスの行方を思う。


(…カロル先生、腹でも壊したか?)



はた迷惑とはこの事だ。

恋人同士の無言の催促…本人同士ならばありふれたコミュニケーションであり、むしろ互いを理解し合っている愛の証明とも言える。視線や表情の微妙な違いの中には、二人にしか分からない愛情表現が詰まっているのだろう…けれど。



恐る恐る戻ってきたカロルが部屋の中の甘い香りと、それ以上に甘い雰囲気を漂わせる二人に、ますます困惑してしまうのは、それから数時間後のことだった。









次頁あとがきです。
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