romanzo

□il banchetto piovoso(TOV レイユリ)
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どんよりとした鉛色の空から雨が落ちる。ぽつりぽつりと決して激しくはない雨脚。けれどその中で羽織りの色が変わるまで天を仰ぐ男がひとり、川に突き出した大岩にしゃがみこんでいるのが見えた。その手に持つのは酒瓶のようだ。まさに酔狂と言うべきか、この天候で普通は顔をしかめそうな所を何やら楽しげに盃を傾けている。


まるで誰かと一杯交わしている様だとユーリは思った。話し掛けようと近寄った所でその様子に気付き、足を止める。きっと本人はなんとも思わないのだろうが、自分が邪魔をしたくはない。


その時、ふっと男の表情がもの哀しいものに変わった。眉間のシワが、何を思い起こしているのかきゅっと寄せられて、何事も無かったかのように元通りになる。再びひとりぼっちの宴席が始まった。




「…ほら酔っ払い、戻れよ。」


見てはいけないものを見たような気がして、反射的に声を掛けてしまった。


「おろ〜?せーねんだ〜」


へらへらと笑う男の片腕を持ち上げ半身を担ぐと、強い酒の匂いが鼻についた。宿へと歩き出しながら、寄り掛かってくる重みに安心している自分がいることに気付く。




必要無いことには深く干渉しない。そう決めたのは自分のはずなのに、どこか悔しい心持ちがする。そしてそう感じること自体が自分の青さを示しているような気がして、胸の中でこっそり舌打ちをした。


彼が分けてくれるその時まで、その酒は彼のものだ。


未だ知らないその酒の味は、きっと飲みやすいものではないのだろう。けれど、いつか手に持つ盃を差し出してくれたなら、それを黙って飲み干す自分で在りたい。




ひそかに抱いた決意を気取られる事の無い様に、ユーリはずり落ちそうな千鳥足の男を背負い直す。ご機嫌な彼の鼻唄が、雨音に混じっていつまでも憎たらしく響いていた。










次頁あとがきです。
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