romanzo

□そんな僕はもう君の虜(振り 浜泉)
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たとえば街で通り過がる知らない人達の中だったり、学校で生徒がわらわらいる休み時間の廊下だったり、校舎からグラウンド挟んで同じユニフォーム着て練習してる10人足らずの中だったり…って、これじゃハードル下がってるか。






「見て見てー!」

昼休みに顔を出した水谷が大声で見せびらかしてくるのは、最近CMでやっている新機種のケータイだ。この前トイレに水没させて嘆いていたと話には聞いていたが、その時少しでも同情したのを後悔する程のウザさで寄ってくる。とりあえず話半分に相槌を打っていると、カメラ機能がどうのこうのとそれはもう饒舌に語り出した。ったく、誰かなんとかしてくれ…

「や、そりゃー俺には勝てないね!」

急に話に入ってきたのは浜田だ。頼むから助長させるような事は言うんじゃねぇぞと睨むと、奴は妙な笑みを浮かべて水谷を教室の後ろに連れ去り、何やらごにょごにょ話し出す。…つーか浜田、お前のケータイって何世代前だよ。

「ぷっ!…確かにそれはうらやましい!!」

「だしょー?」

「恐れ入りましたー!!」

は?今なんて言った?二人でひとしきり笑い、あっさりクラスに戻って行く水谷を俺が余程唖然として眺めていたのか、話を終えた浜田が満足顔で戻ってきた。

「ケータイ、変えたのかよ?」

「んーん、そんな金無いの泉も知ってるっしょ?」

そう尻ポケットから出してきた浜田のケータイは、角がハゲ始めてちょっと痛々しかった。しかしこれではさっきの二人の会話に筋が通らない。なんで?なんだっていうんだ?追及しようと思ったけれどちょうどチャイムが鳴って、種の分からないマジックを見せられたような気分のまま午後の授業が始まってしまった。





全然気付いてないみたいだな…。さっきの泉のぽかんとした顔を思い出し、慌てて顔のニヤつきを押さえる。まぁそりゃー分からないはずだよな。泉は見られる側なんだから。

頬杖をついてつまらない授業から顔を背けると、窓から他学年の授業が見える。あー陸上やってら。身体動かすのは好きだから体育は嫌いじゃないし、多分あのクラスにも見知った奴が何人かいるはずだ。でも風景は風景のまま時間と一緒に流れていくだけ。これだけでは何も反応しない。



たとえば多くの人が行き交う駅前だったり、似たり寄ったりの傘がひしめく雨の日の登下校だったり、豆粒くらいにしか見えない甲子園予選の行進やってるテレビ中継だって…オレはそこに泉がいれば絶対に分かる自信がある。

オレの持つ、この特殊機能の作動条件は泉ただひとり…というより泉にしか作動しない。その代わりいつでもどこでも、誰より早く泉を見付ける事が出来るようになった。逆に言えば、もう泉を風景の一部になんて出来なくなってしまっているのだ。どこか壊れているんじゃないかと言われれば、まぁそうなのかもしれないけど…

「浜田ーよそ見してないで次読め!」

突然の先生の声に慌てて立ち上がると思いがけず椅子が派手に音を上げて、クラスの注目が集まってしまった。先生の溜め息と共に、笑い声がどっと教室に溢れる。

ここで作動したオレだけのスペシャルな機能は、泉のレアな笑顔を捉えるかと思いきや、不機嫌そうな呆れ顔を見付けてしまった。最近のデジカメは笑顔に反応出来るらしいから、ケータイに導入される日も遠くないかもしれない。オレの機能も上がらないかなーと頭をかくと、ちょうど目が合って、ふいとそっぽを向かれてしまった。






「で?で?このケータイに勝る機能って?」

「よく聞け水谷…オレの目にはな、好きな子にいち早くオートフォーカスする機能が付いてるんだぜ。」









ありがとうございました!!

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