romanzo

□l'amaro caffe(振り 浜泉)
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「いずみー!」

あんだよ、といつものようにぶっきらぼうな返事が返ってくる。日はとうに暮れてチカチカと星が輝く中、泉はトンボを引いてグラウンドの整備をしていた。じゃあ先に上がってるなーと泉はチームメイトに声をかけられ、俺はそこにすれ違う。

「なに。」

柄の部分を支えにして口をへの字にする、一つ下の幼馴染。泉はちっこい頃から負けず嫌いで、捻くれ物で…でも中学まではもうちょっと素直だった気がするんだけどなぁ。

「や、別になんもなくてもいいっしょ?」

だって、この前から付き合うことにしたんだからさ。そこまで言ったら絶対に殴られるから言わないけれど、でも本当にそういうことになった。きっかけがあったかどうかは正直なところよく分からない。お互い冗談半分、本気半分で言ってみたら、案外本気の気持ちの方が多かったっていうだけの話だ。そんな簡単に男同士で付き合うなんていいのかよと後から泉には真剣に聞かれたけれど、実際すぐに何かが変わるわけでもない。とりあえず一緒にいて楽しいからいいんじゃないと返して、能天気さに呆れられたのもついニ、三日前の事だ。

「一緒に帰ろうよ。」

何も用が無くても一緒にいることが許される。恋人って始めはそんなもんなんじゃないかなぁとか俺は勝手に思っている。でも何か理由がないと泉は嫌みたいだ。そうだとしても、俺は理由なんていくらでも用意するつもりでいる。そのへんはいっこ上としての努めだという気がするし、それだけで泉と一緒にいられるなら全然余裕だ。

「おぉ。」

「じゃあ十分後に校門ね。肉まん食って帰ろ!」

泉が俺と目を合わせないのも、そっけない言い方で返すのも、全部照れている証拠だった。そして俺は、そんな風に泉をドキドキさせられることが嬉しくて、じんわりとしたぬくもりを噛み締めていた。






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