連続短編

□ゆかし、冬の日にぞなむ。
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人の夢は儚い。
美しいなどと誰が言ったのでしょう。
本当は誰よりも足掻いているのに。

"ゆかし、冬の日にぞなむ。"

「なまえおはよ。」
「おはよう。あれ、今日、学校は?」
「今日は休日だべ。」

壁の白。天井の白。
ベッドの白。
お医者さんや看護師さんの白。
どれもこれも大嫌い。

藤くんは真っ白。
すごく綺麗。
白いけど大好き。

「そっか!ここにいると時間感覚がくるっちゃうなぁ。
ねぇ、また話して聞かせて。」
「話?んー…あ、ヒロがさ、」

病室の窓から見る世界はあまりに狭く、彼から聞く世界は何よりも広かった。

「いいなぁ…私も外に出たい。」
「すぐに出れるよ。」
「そんなこと言って、もう10周年越えだよ?」

元々弱かった心臓。
小学校に上がる前に私は入院することになった。
ランドセルを買いに行った次の日のことだった。
あのランドセルは今どこにいるんだろう。

藤くんはずっとお見舞いに来てくれているけれど、無理をしているんじゃないかと思う。

「良くなったら海に行くべ。
あ、その前一緒に学校に行くか!
俺たちの演奏聴かせてやっからさ。
それから、」
「藤くん。」
「ん?」
「連れてって。」
「もちろん。良くなったらすぐに…」
「今!今、連れてって。あの場所がいい。」

予感がする。
今じゃなきゃダメだって。

「あの場所って…」
「お願い。今日だけ、我が儘聞いて欲しい。」
「だけどそんなことしたら余計に悪くなるって。」
「だけど、私には今しかないの。」
「…」

「わ、かった。」

渋々、藤くんは頷いてくれた。

「今着替えるから。」

今の状態で出掛ければきっとすぐに私の心臓は悲鳴をあげる。
それでも、藤くんと思い出を作りたい。

「行こ。」
「大丈夫か?苦しくなったらちゃんと言えよ?」
「うん。」

ずっと約束していた場所。
海が見える電波塔。
そこに向けてバスと電車を乗り継ぐ。
なんだか駆け落ちみたい。そう言ったら彼は笑えない、と笑って言った。

「今ごろ大騒ぎだよ。多分。」
「やべーな。俺どんだけ怒られんだろ。」
「それよりお金の心配だよ。足りる?」
「丁度もらったばっかのバイト代があるから大丈夫。」

窓の外では雪が降り始めた。
暖房がポカポカと暖かい。

「眠い…」

藤くんの肩に寄り掛かる。
手はしっかりと握ったままで。

「着いたら、起こしてね。」
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