連続短編
□たけくらべ
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あなたの速度が速過ぎて
同じ向きを進んでいるのに
私が止まっているみたいだ。
"たけくらべ-SIDE A-"
「あ、」
「おぅ…」
家の前で偶然バッタリと会った。
家の門を開けようとした時、藤くんが家から出てきた。
隣りには可愛らしい女の子。
ズキッとする。
何だろう。
その後からは何故かチャマ。
「帰るの早いね…」
藤くんが帰宅部だってホントは知ってる。
「あ、あぁ…帰宅部だから。」
チャマが気まずそうな顔をしていて、女の子は不服そうな顔をしている。
「あ、そっか。」
女の子は藤くんに寄り添って当て付けのような態度をとる。
アンタの場所はもうここじゃない―
そう言われてる気がした。
なんだか悔しくて。
ホントはどうでもいいはずなのに悔しくて…
「私ね、ヒロと付き合う事になったよ。」
チャマがそれは大層に驚いた。
藤くんは何も言わない。
それを女の子が心配そうに除きこむ。
「ホラ、昔の、背が高い方のお嫁さんになるってやつ、」
アンタの知らない藤くんを私は知ってんのよ。
そんな気持ち。
今はそれがハッキリ分かる。
「それでまぁ今日…そうなった。」
「…そか。おめでとう。」
あぁ、
離れていってしまう。
「うん。じゃあ、また。」
「おぅ、」
"また"なんてあるのだろうか。
私は家の中に入った。
藤くんは何かを言いかけたみたいだけど、これ以上あの場にいたら泣きそうだった。
「私は…ヒロが好きなんだ…」
暗示をかける。
嫌いじゃない。
それはホント。
誰よりも好き?
一瞬あの人の顔がチラつく。
早く忘れてしまおう。
もう迷わなくていい。
ただひたすらヒロを好きになればいい。