小説コーナー

□バルサ狩り【うえ】
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※これは一話目なので以下の表現はございませんが、念のため。

・異常性癖注意
・カニバリズム(人肉食)注意
・グロ表現注意
・^^














街の端よりもっと南に、“バルサ”という怪物がいるという。


バルサは深い森に棲んでいる、とても恐ろしいクリーチャーだ。


バルサの姿はあたかもセーラー服を着た人の少女のようで、彼等に襲われた人間は口を揃えて“人に襲われた”と言うほどだ。


そして、その肉は非常に美味である。


その胸肉は、牛の脇腹に良く似た味をもち、その脚は、子羊のそれとこの上なく似るという。


はじめバルサは、街から外に出て来た人間を捕らえて食べていた。しかし、人間がバルサの味を占めてからというもの、バルサの棲む森には、時折銃を持って出歩く人間が見られるようになった。


しかし、バルサは感情は豊かであるものの、知能があまり発達していない。人間が自分達を狩りに来ることに気づいていながら、逃げもせず、隠れもしなかった。


ある意味で原始の生物で、またある意味で貴重な生物は、食べるために、また《次世代のペット》などとされ、大多数が人間の手に掛かり、そしてその数を着実に減らしていった。





―――――――――――





「ふう・・・やっと着いた」


それは、暑いような、寒いような、何度も上着を着たり脱いだりする、天気の変わりやすいある秋の日のことであった。


私、高橋広木は、街の中央から出ているバスを降り、ことに30分も歩いて、二年前に街の南端に出来た、まだ新しい気配のする見上げるように巨大な工場へとやって来ていた。


私は、ある出版社に勤めている。普段、日常的に運動をしない仕事に就いている私は、ほんの数十分歩いただけで息を上げてしまった。


工場の大きな鉄柵門の脇には、こぢんまりとした駐輪場がある。おそらく、この工場の従業員達は、自転車を用いて通勤をしているのだろう。


工場の屋根からは、何本もの煙突が突き出し、そこからは濛々と灰色の煙が上がっている。


煙の勢いを眺めると、この工場内で無数の人々が忙しく動いているのが分かった。


私は、この工場を運営している古くからの親友Kに、「工場が軌道にのってきたから見学してみないか」という誘いを受けてやって来たのだった。


高校を出て以来、Kとは会っていない。時折、電話や年賀状で連絡がある程度だ。


数年前にクリーチャー狩猟会社に入社したと聞いたが、今度は工場を興すとは、友人ながらに昔から“デカい”人間だとつくづく思う。


考え事をしていると、突如、後方から耳をつんざくような警笛の音が響いた。


「うぁ、あっすいません」


いつの間にか、私の背後に目が痛いほど真っ赤な大型トラックが門を通れずに停まっていた。見ると、あからさまに煙たい表情をしたトラック運転手と目が合ってしまった。


焦って門前から退くと、さも忙しそうにトラックは発進し、工場の敷地を奥へと進んでいった。


私はそこで始めて、トラックの荷台に目が行った。


そのトラックの荷台には箱状の巨大な木製コンテナが積まれていたが、その中は外からは窺い知れない。


しかし、その形状は食肉用の豚を積み込むコンテナとそっくりだったため、私はあのトラックにこの工場の製品になる肉が積まれているのだと解釈した。





―――――――――――





「やあやあやあ広木、久しぶりじゃないか」


工場に入ると、すぐに工場長であるKが出迎えてくれた。


「立ち話も難だし、接待室に行こうか」


私は彼に促され、工場の中を彼について歩いて行った。


忙しなく動いているはずの工場の中は予想以上に静かで、聞こえるのは私と彼の足音だけ。


「で、どうなんだ?仕事の調子は」


Kに通された接待室で、私は出された熱い緑茶を啜りながら、彼の仕事の調子について聞いてみた。


「いや、お蔭様で順調そのものさ。材料の入荷も安定して来たし、うちの商品にもリピーターが生まれてきたみたいでね」


「それはよかった」


「ははは。そうだ、お前さんはうちの製品を口にしたことがあるかな?」


「いや、まだ食べたことない」


「そうか、それはちょうどいい」


言うと、彼は部屋の隅にあった小さめの冷凍庫から、ビニールの真空パックを取り出して言った。


「これはうちの目玉商品、バルサハンバーグだ。冷凍だからお弁当に便利、忙しいお母さんにもあら便利!ってやつだ。CMもやってるけど、広木は忙しくて見てないだろうな」


彼の言うとおり、私はテレビを見る習慣がほとんどない。むしろ自宅にテレビを置いていない。そのせいか、私は彼が言った“バルサ”というものが何であるかを知らなかったのだ。


「ちょっと待っていてくれ、親友のお前さんのコメントを聞きたいもんでね」


Kは、その冷凍庫の上にあった、コンビニなどにある小さなレンジにそのハンバーグを入れ、加熱を始めた。


「このハンバーグは煮込みタイプだから、調味料いらずで加熱するだけで食べられるんだ。食品アレルギーないよな?」


私は頷くと、皿に載せられた肉を見た。レンジで温められたハンバーグは皿に載せられ、誰が嗅いでも良いというような、美味しそうな匂いを漂わせていた。


「冷めても旨いが熱々が一番さ。さあ、食べてみてくれ」


「いただきます」


そのハンバーグを口に頬張ると、その肉からは言いようのない旨味が広がり、その上をハンバーグにしみこんだ絶妙な味付けが覆っていく。噛めば噛むほどその肉からは凝縮された旨味が溢れ出て来る。冷凍食品とは思えないクオリティだ。


「うっめ、これめっちゃうめ!」


「だろう?今じゃしゃぶきちの市街スーパーの冷食では、このハンバーグが売上ナンバーワンなんだ」


「ほう、確かにこれは伸びる」


私は感嘆の声を漏らしながらも、同時に、この商品が一体何の肉で出来ているのかが気になってきていた。


「この生産工程が見てみたいかい?」


私が聞くより早く、Kは先を読んで聞いてきた。もちろん私の答えは、イエスであった。





―――――――――――




Kは、私に白衣を着るように言った。工場内は清潔第一ということだ。

案内された更衣室で、用意された白衣に着替えて、真っ白なマッシュルームのような帽子を被る。

Kも同じくそこで着替えたが、私が彼と同じ部屋で着替えるのは高校時代の寮生活ぶりだと言うと、Kは「あの頃が懐かしい」と言って笑った。

着替えた私とKは、Kの案内を受けて工場の作業棟へと向かった。





つづく

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