マイナー
□hickey
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「阿部、それ、もしかしてキスマーク!?」
昼休み、野球部+浜田で昼食を摂っていると、突如、大きく耳障りな声が、鼓膜を刺激した。
その声を出した張本人である我らが4番バッターの田島は、オレの首元を凝視している。
大きな瞳をキラキラと輝かせており、思わず身を引いた。
ここが屋上だからよかったものの……そういうことを平気な顔で言わないで欲しい。
「なぁ、そーだろ? 阿部っ」
「……」
周りに助けを求めようとも、皆関わりたくないのか、無言で弁当を貪っている。
そして、このキスマークを付けた張本人は、タイミング悪く、今この場にいない。
めんどくさいことになった、オレは顔をあからさまにしかめ、未だに騒いでいる田島を見据えた。
「あーべぇー! 答えてくれてもいいだろぉ!」
田島は口を尖らせ、オレの肩を揺すり始める。
それはスキンシップ程度の軽いものだったが、昨日散々使った腰には予想以上にきついもので、気づけば、口を滑らせていた。
「ちょっ、お前! 痛いんだから揺らすなよ! ……あ、」
何墓穴掘ってんだよこの野郎!
後悔したが既に遅く、田島は隣の三橋の肩を抱きながら、心底楽しいといった様子で口を開いた。
「うおっ! 昨日、花井にヤられたのか!?」
図星をつかれ、瞬時に熱くなる頬。それを隠そうと、咄嗟に下を向く。
「図星か! 花井意外とやるなぁ!」
「花井、くん は、げし」
三橋が興奮した様子で話に乱入してきたところで、屋上の扉がガチャリと開いた。
そちらに視線を移せば、花井が食料が入ったビニール袋を提げて此方に近づいてくるところだった。
「阿部、どうした?」
隣に座るや否や、花井は心配そうに此方を見つめた。
その視線に耐えられず、ふいと目だけを下に向ける。
「具合でも悪いのか?」
「阿部さ、昨日のこと思い出して顔真っ赤にしちまったんだよ!」
田島が両手を頭の後ろにやり、ニカッと爽やかに笑う。
「はっ!?」
今度は花井の顔がみるみるうちに赤らみ、彼らの恰好の餌食となってしまった。
「意外に激しいんだな。オレ、超ビックリ!」
「オ、レも!」
三橋まで……何でこいつらこんな楽しそうなんだよ。