色々

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少女漫画によくある展開だと思った。
他に例を挙げるならばありきたりでよくある安っぽい映画のシナリオ、ヒロインが駆けだしの女優でイマイチパッとしないまま終わる、みたいな。


最も私の場合、結末はハッピーエンドでもなくてバッドエンドでもないのだろうが。


私だってさ、こんな中途半端な気持ちのまま、終わりなんて迎えたくはなかった。
出来る事ならば、このまま時間が止まってしまえばいいとそう思った。


けれどそんな私の我儘を意地悪な神様が聞き入れてくれるはずもなくて、私はその日、卒業した。


最初から似合うはずもないセーラー服、脱ぐのは別にどうとも思わない。
どうせ何年後かには高校の友達の事なんてすっかり忘れて大人になる。
そのころにはこの制服だって何の意味も持たないのだろう、捨ててしまうか売り飛ばすかだ。
けれども最後に、このセーラー服を着たまま、学生のうちにやっておきたい事が一つある。


それは夜中に校舎に忍びこんで窓ガラスを叩きまわることでも、盗んだバイクで走りだすことでもなくて。


耳にピアスを開けてみたかったのだ。いや、理由は特にない。
ただどこかの少女漫画に書いてた「ピアスホールを開けると運命が変わる」っていうのを試してみたいと思ったのだ。


「痛でで、痛いよ先生 もうちょっと優しくしてくれても」
「うるせェ言っとっけどなぁ化膿とかしても俺ァ知らねェぞ」


卒業証書片手に誰もいなくなった体育館から出ると、足音も立てずにその場所を目指した。


向かった先の保健室の扉を開けると高杉先生は珍しく仕事をしていたようで、私がこっそり後ろから髪を撫でようとしたら頭を殴られてしまった。


痛いです、と上目遣い(プラス涙目)で言っても先生は無視をしてチャッチャと仕事を進めてしまうので、仕方がなしに「先生、ピアス開けてよ」とそう言うと、先生は何で、とオウム返しのように聞き返すので本当に面倒だ。


「運命変えたい」
「へェ帰れば」
「いやいや字ィ違いますって!先生、開けてよ 保険医でしょ」


そう言って最後だからね、と付け加えると先生は黙り込んでしまった。
やめてよ先生、黙り込むなんて嫌だ、私は一言「そうか」と言ってほしかったのに。


「大学行かねェんだってな」
「うん、実家のお店継ぐことにした」


ピアスを、というか体に穴を開けるは初めてだった。


小学校の時にお姉ちゃんが右耳に開けてるのは一度だけ見たけれど、途中でとてもじゃないけど見れなくなってやめた。
だって痛そうだった、血が出てたしな、よくやるな、と思ったから。


「ねぇ先生」
「あん?」
「卒業しても先生に会いに来てもいいかな?」
「無理」
「…何で、」
「もう生徒じゃねーだろお前」
「……」


あぁ、返事すら出来やしない、何かが喉に何か引っ掛かってうまく話せない。
なんだろ、しょっぱい匂いがするの、誰かが私の喉に何かを突き刺しているような、そんな気がして仕方がない。


先生、私ね、先生に言いたい事がある


「…先生」
「何だ」


今まで臆病すぎて、まだ幼くて、まだ「生徒」だったから言えなかったから


先生私、今なら言える気がするんだ、だってピアスを開けたから、運命が変わったんでしょう?
だったら試してみなくちゃいけない、運命を変えなくちゃいけないわ


「 好き 」


あぁ、今、私は誰よりも大きな声で叫んで、それで大泣きしてしまいたい


それで先生の優しい手でその涙を拭ってもらえたらどんなに幸せだろう、泣くなよ、俺はここにいるよと、そんな風に先生が言ってくれればいい


優しく髪を撫でてくればいい、優しいその手で抱きしめてくれればいい、そんなの何度だって想像した


何度、私と先生が「先生」と「生徒」じゃなければいいと思ったのに


「っ先生!」
「終わった」


二度と私を、離さないよって言ってくれればいい、誰にも渡さないよ、俺のもんだなんてそんな、
そんな言葉を並べてほしかったのに、


「っ待って先生、返事は、」
「悪ィな」


遮るように言うその言葉が最後だなんて、私はそんなの認めたくはない
いいえ、認めるもんか、だなんて、そんな強がりが許されればよかったのに


けれど



「興味ない」



そう言う先生の顔が最後だった、私の、高校生活



3月9日


安っぽいドラマはお終いだわ、さようなら


企画/歌夢様に提出
素敵な企画に参加させていただいてありがとうございました

文章がへったくそですが特に気にしないで下さい/似鳥



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