短編
□信号停止の恋
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これが夢なら、一生覚めなくていい。
本気でそう思える恋だった。
「どうしたんだい?こんなところに呼び出して。僕はあまり暇じゃないんだが」
『ごめん…すぐ終わるから』
前のあなたならたとえ忙しくても私を邪険に扱うことなんてなかったのになぁ、なんて昔に想いを馳せようとした自分を叱咤し真っ直ぐきれいなオッドアイを見つめた
『あのね、私たち…別れたほうがいいと、思うんだ』
「………それは、どういう意味だい?」
赤司の瞳がすっと細められて鋭く視線を飛ばしてきた。
その強さに怯みそうになったがなんとか持ち直し鋭い瞳から視線をそらさず真っ向から向き合って言葉を紡ぐ
『征君は忙しそうだし、あまり一緒に入れないし、何より…………』
「何より?」
『今の征君とは一緒にいられないって、思ってる私がいるから…』
言葉を紡いだ瞬間ゆっくりとこちらに近づいてくる赤司に「あぁ、怒ってるなぁ」と思いつつその瞳を見つめる
「君らしくないね、寂しかったのかな?最近はあまり構ってあげられなかったからね…
しょうがない子だ…今から2人で出かけよう。だから機嫌を直してくれ」
甘い声で耳元に唇を寄せて私を抱き寄せるその腕にいつもいつも絆されて今まで考えないようにしていたこと。
でもこれ以上は限界なんだと思う。
だってあなたに抱かれているのに私………何にも感じれなくなってる。
『…………いつからだろうね、征君が私と一緒にいる時間を構うって表現にしたの』
「………名無しさん?」
『私は別に一緒にいる時間が短くても、デートとか行けなくても不満なんてないよ。だって征君が誰よりもバスケに対して真剣に取り組んでるのも、他を疎かにしないように頑張ってるのもずっと、ずーっと見てきたから』
「だったら『でもね、』」
征君の胸を押して無理矢理距離をとる。
驚いているあなたの頬に触れ、ずっと隠してきた胸の内を吐く
『物やペットとして私を傍に置こうとしてる今の征君とは一緒にいたくない』
「何を言って…」
『自分でも無意識だったんじゃないかな。最初は私も気にしてなかった、けどね…』
深呼吸とともにさらに一歩距離をとり下手糞な笑顔で終わりを告げる
『今の征君が欲しいのは私じゃない。従順であなたに意見しないあなたの望みどおりになる人形。欲しいときにだけ傍にいるペット。私はそんな風にはなれないし、そんな関係ならいらないから…』
「名無しさん……少し疲れているのかな、今日はもう帰って休んだほうがいい。僕もこれから部活があるし送ってやれないが…」
『ねぇ征君…ダメなんだよこのままじゃ。本当は気づいてるんだよね?』
「うるさい、うるさいうるさい!僕に意見するな!!」
『征君、私前に進みたい。もう、縛られたままは…嫌だよ』
「僕、は………」
『征君のすべてを受け入れられない私に傍にいる資格はないのかもしれない。
ううん、こうして今理由を並べ立ててあなたから離れようとしてる時点であなたから逃げてるだけなのはわかってる。
だけどこのままじゃ変われないってことには気づけたから、』
言葉は最後まで紡げなかった。
唇に熱。頬に滴。そして目の前には綺麗なあなたの泣き顔
「ごめん、ごめん………ごめん」
『私こそ、ごめんなさい…こんな状態の征君から、離れるという選択肢しか見つけられない…』
「いいんだ、今の僕では君を幸せにできない…わかっていても、君を手放せなかった…名無しさん以外に縋れる場所なんて、僕にはなかったから…」
額をコツンと合わせて今までのすれ違いを埋めるようにポツリポツリと話す
「ようやく決心がついたよ。ありがとう名無しさん。これでやっと君を自由にしてあげられる……………さようならだ」
『………うん、ばいばい征君』
「いつか、いつか必ず君を迎えに行く。君を幸せにできる僕になって…」
『じゃあ、私は征君を支えられるかっこいい女になる。……ずっと待ってるね』
少しだけお別れ。
でも大丈夫。
この恋はきっとまた動き出す。
(物語が動き出すのはそう遠くない未来なのかもしれない…)