短編

□あげない
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いつだってそう。
キラキラしていつも何かを探してキョロキョロして
それなのに時にひどく甘い色で私を見つめるその蜂蜜色の瞳が、苦手なんだ。






「なぁ、いいだろう?」

『だめ』

「最高の驚きを君にもたらすぞ?」

『いらない』


なーんて会話は日常茶飯事
だけどこの会話が自分にとってどれだけ危険で甘美なものなのか知っていても知らないフリをする。



「なぁ、頼むよ主」

『だめなものはだめなの。それ以上しつこいと部屋から追い出すよ?』

「主はそんなことはしないね。なんてたって俺の主は世界一優しいお人だからな!」

『煽てても教えたりしないよ』

「おや、頬が赤いぞ?やはり主は可愛いな」


そう言って私の頬に指を滑らせる彼の白い手が少し冷たくて身を捩る
それがお気に召したのか口許を耳に近づけ言い募る


「主……頼むよ」

『……だめ』

「どうして?」

『だって、教えればあなたは…………………………


















私を隠してしまうでしょ?』


















鶴丸がそう求めるようになってしまったのは間違いなく私が原因だ
鶴丸にあの人を重ねてしまったから


「主、主はどうして俺を近侍に選んだんだ?」

『ん?そーだなぁなんでだろ』

「おいおい、自分で選んだのにそれはないだろ?」

『ふふ、ごめんごめん。でも明確な理由はないんだ。直感的に思い浮かんだのが鶴丸だったんだよ』

「ふむ、直感か…」

『それに………』

「それに?」

『ううん、やっぱりなんでもない』

「なんだ、気になるじゃないか。教えてくれ」

『うーん、恥ずかしいからあんまり言いたくなかったんだけどなぁ…』
















【昔好きだった人に似てるから、かな】





















あれ以来鶴丸はどこか変わった
ううん、私が変えてしまった。
最初は些細な変化だった
承認欲求が強くなって自分を求められることに必死で

そして私に愛を求めるようになった



「主、俺が好きか?」

『急にどうしたの?』

「いいから。俺が好きか?」

『もちろん好きだよ。私の大事な刀剣だもの』

「じゃあ……俺を愛してるか?」

『…ねぇ、ホントにどうしたの?今日の鶴丸何か変だよ?』

「いいから答えてくれ主。主は………俺を愛してるか?」


その顔がひどく悲しそうで苦しそうで
なんと答えれば正解かなんてわからなくて


『そうだね、愛してるよ』

「主の、想い人よりもか?」

『え…』

「なぁ主、主は俺に想い人を重ねてるんだろ?」

『っ、そんなこと!』


ないとは、言えなかった
だって実際に鶴丸がこの本丸に来て初めて顕現したとき思ってしまったから

あの人に、似ていると




「やっぱり、そうなのか……」

『鶴丸…あの、「俺は俺だ」

『え?』

「俺は主の想い人じゃない鶴丸国永だ
なぁ主、俺を見てくれ。俺自身を…
でないと、俺は………」


その続きをなんと言ったのかは聞き取れなくて
けどその後すぐ戯けて見せた鶴丸の笑顔が貼り付けられた偽物だってことだけは理解した。

それから鶴丸は私の真名を欲しがるようになった








「そんなことはしないさ。ただ主の名前を呼んでみたいだけなんだ」

『だめだよ、真名を神様にあげることがどんな意味があるのか、私だって馬鹿じゃないからわかるよ』

「主は………俺を愛しているのに俺のお願いを聞いてくれないのか?」

『………愛してるからって全てを捧げる訳じゃないわ。人間ってそういう生き物なの』

「わからないな、俺は人ではないから…」

『鶴丸…』

「俺が人だったら、主は……………俺だけを見てくれたか?」


その言葉にやはり私が彼を傷付けてしまったのだと深く痛感した


「どうして俺は、刀剣として生まれてしまったんだろうな」

『………』

「人として生まれていれば主と想い合うことが、できたかもしれないのに」

『………もし、鶴丸が人間だったとしても、鶴丸が私の恋人になることはないよ』

「……何故?」

『私は今でもあの人が好きだから
ううん、これからもあの人だけを好きだから』

「…………」

『…それでも真名が欲しいならあげる』

「え…」

『真名はあげる、でも心はあげない』

「こころ…」

『隠したいなら隠せばいい。
あなたをここまで追い詰めてしまったのは紛れもなく私だから』

「主!それはっ『でも、』

「……でも?」

『私の心は、想いはあげられない
私の中にはあの人がずっといるから』

「もう、会えないとしてもか?」

『もうとっくに会えないよ。だって…』

「だって?」

『あの人は、もう亡くなってるから』

「え…」


初めて顕現したときあの人が会いに来てくれたんじゃないかって、そう思ってしまった


『あの人がいなくなって、心にぽっかり穴が空いたみたいで…
そんなとき審神者にならないかって言われて、ほとんど考えないで返事をしてた』

「何故…審神者になったんだ?」

『このままじゃ私、歴史修正主義者になっちゃうって話を聞いて思ったから』

「………」

『あの人がまだ生きている未来を望んでしまいそうだったから』

「何故、それを望まなかったんだ?もし歴史が修正されれば主の想い人は…」

『あの人がそんなこと、望むはずがないって思ったから』

「っ、」

『あの人ね、亡くなるときに私に言ったの【俺は世界一の幸福者だ】って』


細められた蜂蜜色の瞳がひどく穏やかでなにも言えずに泣いてしまったのをよく覚えてる。


『だから望んじゃいけないって、あの人の幸せを…壊しちゃいけないって』

「それで、主が独りになってもか?」

『独りじゃないよ』

「だが…『だって鶴丸がいるでしょ?』

「主…」

『鶴丸だけじゃない。私の本丸に来てくれた皆がいるから、私は独りじゃないよ』

「…そうか」

『ねぇ、鶴丸』

「…なんだ、主」

『初めて鶴丸と会ったときね、最初はすごくあの人に似てると思ったの』

「あぁ、だから『でもね、そんなの一瞬でどっかにいっちゃった』

「え?」















『初めまして、この本丸の審神者です。』

「あぁ、随分温い霊力の持ち主だと思ったら女性とはな!こいつは驚きだ!」

『ふふ、これからよろしくお願いしますね。鶴丸国永』

「あぁ、君に最高の驚きをもたらそう!」

『楽しみにしていますね』













『私、昔からよく冷めた人だって言われてたんだ。あの人にも最初はそう言われてた』

「……」

『でも鶴丸は温いって、言ってくれた』

「主…」

『それが、すごく、すっごく嬉しかった』


























本当は気付いてた私の心は別の人を求め初めているんだって



「主は優しいな」

『そんなこと言われたの初めて』

「なんだって?そいつは驚きだ。
みんな主の優しさに気付かないなんて主の刀剣なのに薄情なやつばかりだな」

『皆は悪くないよ。実際私優しくなんかないし』

「そんなことはないさ、主はいつだって俺達のことを考えてる。それが伝わりにくいだけでな」

『そう、なのかな…』

「そうさ!流石は俺の主だな!!俺は鼻が高いぞ!!」

『ふふ、ありがとう鶴丸』

「何を、俺は本当のことを言ったまでだ」

















『鶴丸はいつだって私を見てくれる
それが私は何よりも嬉しいんだ』

「俺は…」

『ありがとう鶴丸。鶴丸がいてくれるから、私頑張ろうって思えるんだよ』

「主…」

『もらってばっかりじゃだめだなって、ホントはわかってた
だからいいよ。私の真名、あげる』

「………………いや、いい」

『え?』

「主、すまない」

『どうして鶴丸が謝るの?悪いのは「俺は主が好きだ」

『へ、』

「けど、主の想い人には遠く及ばない。俺は欲張りだからその先を望んでしまう。主の未来を望んでしまう。」

『鶴丸…』

「だから、俺はもっと良い男になる。主を悲しませない、主を幸せにできる男に」

『……うん』

「もし、その時に主が俺と一緒にいることを望んでくれたら、その時は主の真名を俺にくれ」

『…ふふ、わかった。その時が来たら、ね』

「あぁ!必ず主を振り向かせて見せるぞ!なんたって俺は鶴丸国永だからな!!」

『…うん、そうだね』



























(その瞳が苦手だった)
(あの人を思い出してしまうから
(でも、今なら言える)


『鶴丸の瞳は綺麗だね宝石みたい』

「そうかそうか!気に入ったか?」

『うん。大好き』



(その蜂蜜色に恋をしてもいいですか?)
(いつかあなたに真名を捧げるその日まで)

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