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□INNOCENT
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いきなり鳴った軽やかな着信音に、チャンミンは顔をしかめてそちらを見る。
机の上で鳴り続けている携帯はユチョンのものだが
本人はいない。この楽屋にいるのはチャンミンだけ。雑誌の撮影のため訪れた、住宅街の中にある一軒家。日が落ちると周辺住民への配慮でストロボの光が洩れないようセッティングし直さねばならず、現在撮影は中断されている。こんなことは慣れているので、メンバーはそれぞれ思い思いに空き時間を過ごしていた。ユノとジュンスはスタッフと出て行き、ジェジュンは煙草を手に喫煙場所へ。
ユチョンは…なにも言わず、ふらりとどこかに行ってしまった。
彼がいなくなってから、彼の携帯が鳴るのはこれで二度目。着信音からすると電話のようだし、どうしようか…。
迷うチャンミンの前で、携帯はふつりと静かになった。あぁ良かった。でも、家族や友人なら早くかけてあげる方がいい。撮影が始まってしまえば、しばらく自由がなくなる。
そう、考えてユチョンの携帯を手に立ち上がった。
楽屋を出て、歩き出す。
家、と言っても半ばスタジオとして利用されるこの屋敷は、部屋数も多い。スタッフの人数に比べて広い空間を宛もなく歩いていると、ふと音が聞こえた。
ガタッ、と。
それほど大きくはないが、確かに。すぐ側に細く開いたドアがある。音はこの部屋からだった気がして、
チャンミンはそっと中を覗いた。

「っ!?」

息が、止まる。目の前の光景を頭が理解できなくて、動くこともできない。

薄暗い、家具のない納戸のような部屋で。

「…はっ…」

壁にもたれたユチョンが、固く目を閉じ喘いでいる。衣装の前は開かれ、白い胸が艶々と震えていた。
彼の前に跪く、一人の男。こちらに背を向けているので誰かはわからないが、背格好を見るとスタッフらしい。下肢に埋めた頭を彼が動かす度に、開きっぱなしのユチョンの口から言葉にならない声が溢れる。

「あっ、あっ…ん!…」

一声、高く鳴いた後、ユチョンは自分の口を手で覆う。苦しげに眉を寄せ、目を閉じて。その表情はチャンミンがこれまで一度も見たことない、体の奥がずきんと疼く。

ふらっ、と扉から離れて、後ずさった。あの光景が視界から消えた途端、体が勝手に動いて駆け出す。

なんだ。

今のは、なんだったんだ。

頭の中はそんな拙い言葉で一杯で。
楽屋に飛び込み、後ろ手にドアを閉める。自分が出たときと同じ、誰もいない部屋。ごくり、と唾を飲んだ途端、背中にドアがあたって飛び上がる。入って来たのはジェジュンで、彼もチャンミンの様子に驚いている。
「どした?」
「いえ、あの…」
呟いた拍子に、握ったままだったユチョンの携帯が滑って落ちた。あ、と慌てて拾い上げるチャンミンに、ジェジュンの表情が変わった。
「…それ、ユチョンの?」「…あ、の…」
チャンミンの肩にジェジュンが触れる。そっと、握ったままの携帯を取り上げて机に置いた。


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