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□INNOCENT
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苛々としたまま一日を終え、そのことでまた自己嫌悪に陥って。宿舎に戻る頃にはチャンミンの神経はくたくただった。
ぼんやりと、靴を脱いで中に入る。部屋に向かおうとする腕を、背後から誰かが掴んだ。
「チャンミン、ちょっと」「…兄」
ユチョン、だった。おいで、とそのまま強引に彼の部屋に連れ込まれ、我に返ってチャンミンは腕を振り払う。
「なにを…」
「なに、って…」
ため息をついて、ユチョンは側のベッドに腰掛ける。「…話をしようか、って」「…」
「座れよ。…見下ろされてたら、話しにくい」
見上げてくるユチョンの視線は落ち着いている。
少し迷った後、チャンミンは腰を下ろして床に座った。目を伏せるとユチョンの素足が目に入り、何故か顔を背けたくなる。
「…ジェジュン兄から聞いた。…悪かったな、変なもの見せちゃって」
「…」
返事はしなかった。ユチョンの方も、構わず話を続ける。
「…ときどき、あるんだ。ああいうこと」
側の、灰皿と煙草を引き寄せるユチョン。一本を口にくわえて火を点ける。
「…男に、声かけられてさ。…抱かれること」
「っ!」
堪らず彼を睨むが、ユチョンの表情は変わらない。むしろ一番言いにくいことを言ってしまったせいか、彼の口調は滑らかになる。
「軽蔑でも馬鹿にでも、好きにしてくれて構わない。だけど、…怯えるのはやめてくれないかな」
「…怯える?」
あぁ、確かにこんな弱い声ではそう思われても仕方ない。互いに視線を逸らせたままの、会話。
「…チャンミン、オレが怖いんだろ?」
「…いえ、」
「…無理すんな」
ゆらめく煙を目で追いながら、
「…これからは気を付けるよ。誰かに気付かれないように」
「…兄」
「ん?」
そろそろと目を上げ、チャンミンはユチョンを見る。「…ジェジュン兄以外、…知ってるんですか、誰か」低い、笑い声。
「オレを抱いた連中は、知ってるな」
「…」
「心配しなくても、お互い後ろめたいのは同じだから…。皆の迷惑になるようなことは、ないよ」
「…」
「話はそれだけ。…いいよ、もう」
出て行けということか。
この部屋に来る前より重くなった体を持て余しながら、立ち上がる。
部屋を出ようとして、ドアに手をかけチャンミンは振り返った。
「…兄」
「…ん?」
煙を目で追うユチョンに、尋ねた。
「どうして、…あんなことを?」
これだけは聞きたかった。いや、まずそれをユチョンの方から言うと思ったのに、彼は言い訳すらしようとしなかった。
真っ直ぐに見つめてくるユチョンは、ユチョンだ。
チャンミンの知る、楽しくて時々意地悪で、でもとても…優しい。

…だけど。

ふと目蓋が熱くなり、チャンミンは彼から顔を背ける。ユチョンが、ぽつりと呟いた。
「…必要だから、かな」
「え?」
「んー…」
煙草を消して、立ち上がるユチョン。チャンミンに近付き、腕に軽く触れて。
「…オレを、保つために」「…」
「…いいよ、わからなくて」
すぐ側でユチョンは笑っている。でもそれは、チャンミンが見たことのない、寂しげな笑みだった。


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