NOVEL

□ある週末の晴れた日に
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なんだかすっごく居心地悪い。

「ヒョン、お腹空きましたよ」

いつもは可愛くて仕方ない筈の弟たちの言葉も耳に入らない。今は、何にもしたくない。
こんな気分の日は一人になりたいのだ。

「ん〜、悪いんだけど適当に何か食べて?カップラーメンかなにかあるから。」

返事をしないのはさすがにチャンミンに悪いから、そう一言告げて自室に戻ろうとすると、

「おい。弟たちの前であんまカッカすんなよ。雰囲気悪くなるだろ。」

「・・・・っ、」

今一番話したくない相手、加えて不機嫌の原因でもあるユノにそう呼び止められ、俺の気分は急下落。

「何だよっ・・・ユノにそれを言われたくない・・・」

「どういう意味だ」

いつもよりユノの声のトーンが低いことから、彼が今の俺の一言にイラつきを隠せていないのがわかる。

「どうもこうも、ユノのせいじゃん、ユノが居るからすっごく居心地悪いのっ」

「ちょっ、ちょっとジェジュンヒョン・・・!」

ユチョンやジュンスが慌てて俺たちの止めに入るが構うものか。

「ユノが全部悪いんだから!!」

「声を荒げるな、皆驚いてる」

「っ・・・もう知らない!」

ユノは俺の言葉に表情一つ変えずに小さくため息をついて言った。

「わかった。それじゃあ俺は何処かで適当に飯食ってくるから、弟たちの分位、何か作ってやれよ。皆お前の料理、楽しみにしてるんだから。」

「・・・・・・」

「適当な時間に戻る。じゃっ・・・」

パタン、と静かに扉が閉まって残された俺と弟の間にはなんとも言えない雰囲気が漂う。なんとなく気まずくなって、
「・・さっ!じぁユノも行ったことだしご飯作ろうかな!」

なんてオーバーリアクションでキッチンに向かう。何を作ろうかと冷蔵庫の食材を確認して
思い出す。あ、今日は久しぶりにユノの好きなチゲ鍋にしようと思って昨日から食材買ってあったんだっけ。

「・・・・・・・・・」

なんだか一人、取り残されてしまったようで心細さを感じる。
あんなこと言わなければ良かった。あんな風に言わなければ、今少なくともユノは同じ空間にいたはずだったのに。

「っ・・・・・」

どうしよ。泣きそう。わかってた。悪いのはユノじゃない。自分だってこと。
わかってるのに、「ごめんね」たった一言がどうしても言えなくて。いつも、喧嘩した時ユノは「ごめん。俺が悪かった」って抱きしめてくれた。
ユノはいつも俺よりもずっと大人だった。
だからそれに、何処か慣れてしまった自分がいた。今回もきっと、ユノは「いつも通り」だと思ってた。けれどユノの口からは初めて聞くとっても低い声。

『いい加減にしろ』

ユノを本気で怒らせた。驚いて、何も言えなくなって。
それなのにユノが怖い顔して、

『お前、疲れる』

なんて言うから涙が溢れて、逃げ出したくなって、投げやりな言葉でユノから逃れた。

ーユノなんていらない!大嫌いっ!!!











 きっかけは、ある画像だった。
いつも通り、興味本位で自国のユンジェファンカフェサイトを見ていた時だった。
「ユノユノ、ついにスキャンダル!?」なんていう派手に飾られたリンク先をほんの出来心でクリックした瞬間、出てきた好ましくない写真画像。
映っていたのは以前ユノがドラマで共演した女優との2ショット。しかも、親しげに腕を組んでいるもの、だ。そしてその彼女の瞳を見てすぐわかった。
この人、ユノのことが好きなんだって。
だから不安になってユノにこの写真のことを咎めた。
全く心外だというユノにしつこく真意を問いただそうとした俺。

『だから、彼女とは何もないから』

『でも、こういうの嫌なの!』

『仕方ないだろ。腕を組んできたのは彼女の方だし振りほどく訳にもいかないだろ』

『どうだか。まんざらでもなかったんじゃないの?ユノだって男の子だし、こんな綺麗な女の人にこんな風にされて本当は嬉しかったんじゃないのっ』

『お前な。自分が何を言ってんのかわかってるのか!?』

『わかってるよ!寧ろわかってないのはユノの方だ!』


ユノのことを信じていないわけでも、疑っているわけでもなかった。ただ、すごく不安で。ユノが、ほかの女の人に取られてしまいそうで怖くて。それだけで気持ちが一杯一杯になってしまった。
だから感情のままにユノの気持ちを無視してあたってしまった。
そして気持ちが互いに複雑に絡み合ってしまった。

「はぁ・・・俺ってユノの恋人失格だよっ・・・」


結局予定通りユノの好物のチゲを作りながら思う。この料理をユノに食べてもらいたかった。美味しいよって、真っ白な歯を見せて笑って欲しかった。
それなのに、俺自身がそれを出来なくしてしまった。

「・・・俺の、パボ。」

「ジェジュンヒョン、そんな暗い顔してさ。料理にくら〜いスパイスかかっちゃうよ?」

「!?」

急に耳に入った慣れ親しんだ声に作業を止めて顔をあげる。

「ユチョン・・・」

冷蔵庫から水を取り出した彼と、目が合った。

「ユノ兄、悩んでたよ?」

「えっ・・?」

「手、空きそう?」

「あ、うん・・。野菜入れたら・・」

「じゃ、ソファで待ってる」

取り出した水に加えてグラスを2つ手元に持ちソファにポスっ、と座ったユチョン。・・・。悩んでるって、そう言った。何を?ユノに何かあったの?自分のせいで、ユノが苦しんでるの?
ユチョンの言葉が気になって仕方がない。少々乱暴に野菜を入れ、簡単に手を洗い、急いでユチョンの元へ向かう。

「ふふっ、ヒョンってばそんなに慌てると転ぶよ?」

ユチョンは穏やかに笑って笑顔で「こっち」と向かい側のソファに座るよう俺を促した。

「ユノ兄から話、聞いた」

「・・・・そう・・」

「後悔してる?思ってもないこと、たくさん言っちゃったでしょ。」

「・・うん・・」

「ヒョンの気持ちもわかるよ。不安だったんだよね。」

ユチョンの優しい投げかけが心に染みてなんだか涙が溢れてきそう・・。

「ユノ兄がね、こんなにジェジュンを愛しているのにどうしてうまく伝わらないんだろう、って。自分の愛し方が悪いから、いつもジェジュンを不安にさせている、ってそう言ってた。」

「えっ・・ユノ・・そんなこと・・ないのにっ・・」

知らなかった。ユノがそんな風に考えていてくれたなんて。
俺のこと、もっと悪く言ってもいいのに。そうだ、ユノは絶対相手を責めるようなことはしない。出会ってから今まで、彼はいつもそうだった。

「ヒョン、どうしたらいいか、わかるよね?」

バカだ俺。ユノにこんなに大切にされているのに、愛されているのに、ユノの気持ち、ちゃんとわかってあげられなかった。

「ユチョっ・・・俺、ユノに謝らなきゃっ・・」

「んじゃ、早いとこ仲直りしてよね!うちの一家は嫁の気分次第で動くんだからさ」

「ふふ、何それっ」

「割かしそうだよ?東方一家は!」

ユチョンが悪戯に笑った。うん、そうだね。東方一家は、明るくなくちゃね。

「ユチョン、ありがと」
























11時半、夕飯を済まして自室に戻る弟たち。俺は、「もう少し待ってる」と言って、ソファに腰かけた。
ふと、テーブルの上に用意した2人分の料理に目を移した。ユノの分を抜いて作る、なんてこと、どうしてもしたくなくてこうして彼の分も用意した。もう夕飯は済ましてしまったかもしれないけれど、一口でもいいからユノに食べてもらいたい。もう一つは、彼と一緒に食事がしたくて適量の料理を飾った皿。自分のものである。ふと立ち上がり、用意した鍋や野菜を見ると、それは冷めてきてしまっていた。

「ユノ・・・早く、かえってきてよ・・・」

こんな時間まで一体何処に行っているのか不安で仕方がなくなってきた。こんなことになったのはそもそも自分のせいなのだが、それでも不安は募るばかりだ。ユノ、今どこにいるの?

「・・・ユノ・・」

考えたらきりがなくて色々と嫌なことを想像してしまう。不安で不安で、それに押し潰されそうで居てもたってもいられない。とにかくユノの声が聴きたくなって、携帯を手に取りユノへの電話をかけた。


ー・・・・・。

暫くのコールの後に、大好きな彼の声が響いた。

『もしもし?ジェジュン?』

『ゆっ・・ユノぉ・・今、どこっ?』

『え、ダンスの練習しに近くのスタジオにきてる』

『ユノっ・・あの、ご飯作ったの。ユノの分もっ・・作ったの。俺、待ってるからっ・・早く帰ってきてっ・・』

『・・ジェジュン・・』

『っユノ・・あいっ・・愛してるっ』

途中、ユノが何か言いかけた気がする。けれどそう告げてすぐに電話を切った。
ユノの声を聞いたら安堵する。ユノが帰ってきたら、素直に「ごめんなさい」を言おう。そしてまた、力強くて男らしい腕で、ぎゅっと抱きしめてもらいたいの。















「ただいま」

「!」

玄関が開くなり俺はユノに抱きついた。ユノは動じずに優しく俺に投げかけた。

「ジェジュア・・、どうしたの?」

「ユノッ・・ユノ、ごめっ・・ごめんなさい・・」

泣きそうになって震える声を必死に出してそう告げた。
「ごめんなさい」、今日初めてユノに、そう言った。

「ジェジュン、俺こそ悪かった。お前に酷いことを言った。」

「違う!ユノは悪くないからっ!ユノ、俺こそユノにいっぱい酷いことっ・・!ユノが
居るから居心地悪いなんて嘘だよっ!ユノが嫌いなんてもっと嘘!それからっ・・」

泣きながら訴える俺にユノが優しく笑った。そして気が付けば俺はユノの腕の中で・・。

「もういいから。ちゃんとわかってるから」

「ユノっ・・でも俺っ・・」

「いいから黙れよ」

突然塞がれた唇から、ユノの温かい気持ちが伝わってきた。

「んっ・・はっ・・ユノ?」

「これで、仲直り、だからな?」

「・・・うっ、うん!!」













ユノ、もうあんな画像、いくら流れたって気にしない。
真実はいつだってユノが示してくれているんだから。
そしてユノが自分への愛を示してくれるように自分も精一杯のことをしよう。

美味しいご飯を作ろう、









ふかふかの布団を用意しよう、









温かいお風呂を用意しよう、













それから・・・・・












ー・・・・・














END
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