*あまつき<another story>*
□第無色:告天による序説
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―――ちりーん―――
鈴にも似たその音はだんだんと近く、大きくなりながら鳴る。
橋の上に見えたのは二匹の妖だった。
一匹は鵺。猿に似た顔立ち。獰猛な牙。しっかりと獲物をとらえた両の目。ラ
イオンのようなたてがみ。猫のような体躯。猫と決定的に違うのはその大きさだ
った。
もう一方の妖は人型で小さく鵺の上に立っている。
人型の妖の名は夜行。帝天から与えられた四天の名は―――告天―――。
――本来帝天しか持ちえない変化の力を持つもの――
夜行が問うた。
《――ひとつ虚とはなんぞや――》
《――ひとつ実とはなんぞや――》
《人は頭に支配されておる》
――な、に……?―――
《見る聞くさわる…等々人の感覚とはつまるところお主ら人間の頭の中のか細い合図のやり取りでしかない》
周りから強烈な花の匂いが漂う。それと一緒にとおりゃんせの謡も耳に届く。
《ならば……
実とはなんぞや。
死とはなんぞや。
生とはなんぞや――》
―――ちりーん―――
再び鈴のような音が鳴り響く。
《見つけよ。知るために》
《――見つけよ。応えを持つ者を――》
―――この地に今一度、婀娜すモノ降り立たん―――
《かつての道化、かつての人を……》
そう云うと夜行の姿は鵺と共に消えていった―――