帝人受け


□消えたのは
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※小説3巻のネタバレあり









僕は大雨の中走っていた

びしょ濡れになろうが構わず、無我夢中で走った



「どうして…、正臣……なんで、」



正臣が、消えた


学校に行って正臣が退学をした事を知って
すぐに正臣の家へ向かうべく教室に入る前に走った

後ろで教師達がなにか言ってた気がするがそんなのどうでもいい

だけど、正臣の家はもぬけの殻で
其処に住んでいた痕跡すらなかった


それからの事はあまりよく覚えていない

気付いたら雨が降っていて、
気付いたら走っていて、
気付いたら正臣の名前を呼んでいて、
気付いたら―――



「……あ、此処」



いつもの公園、と正臣に言ったら通じる場所

よく暇な時とか学校帰りに正臣とか園原さんとよく来た所


でも、僕一人で来ても意味がない

いつもなら楽しい筈のその場所も今は見ていて虚しくなる


中を覗くと、流石にまだ朝早かったからか誰もいなかった

普通の小学生等は学校だろうし、大人は子供がいないかぎり自発的に来ようとは思わないのだろう

僕も正臣が誘ってくれなかったらこの公園すら知らなかったかもしれない


 
「…………」



学校に着くなり、学校を飛び出した為、する事もないし家に帰っても虚しさが増すだけだと思ったから公園に入る事にした

只、よく考えたら狭い自分の家より広くて誰もいない公園の方が虚しさが増すと、その時は深く考えてなかった


正臣と二人、時には園原さんが混ざった三人でよく座った場所

近くにはベンチもあったけど、何時も誰か座ってるからこの花壇の此処の位置によく座っていた

隣には必ず正臣がいたのに、
足りない

たった一人、正臣が欠けただけでこんなにも寂しいだなんて

離れてから初めてその人の大切さに気付くとよく言われるが
僕は絶対にそんな事はないと思っていた

大切さは自覚してるし、離れるなんてそんな事はしないと思っていたからだ

でも、僕は実際に正臣と離れてから僕の中で正臣がどれほどの存在だったか気付いた

それに、どちらか片方だけが離れないと思っていても駄目なのだ



「………っ」



そこまで頭を巡らせて、ようやく自分が泣いている事に気が付いた

膝に出来てる滲んだ後を見ると、結構前から涙が出ていたのかもしれない
 
涙が出てる事にも気付かないぐらいに正臣の事を考えてる自分を改めてみて、
正臣が消える前の正臣の存在の大きさを分かってるつもりだった自分を殴りたくなった


僕の目から溢れる涙は嗚咽も何もなく、只流れている

流れる為だけに生まれてきた涙、



「……正臣、」



僕の記憶にしっかりと刻まれた正臣との思い出はそう簡単に消えてくれない

正臣は消えただけで死んだ訳じゃないからこそ、
また会えるかもと考えしまって、いっそのこと死んでくれた方がましだとか思ってる自分を心中で自重気味に嘲笑った


もう、何を願おうが遅いのに
やはり生きてるかぎり僕は正臣の事を探し続けるだろうと容易に想像できた



「………どうして、だろうね」





消えたのは
(正臣の存在だけで)
(どうせなら僕の記憶も消えてほしかった、とか)



 

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