帝人受け
□貴方がつけた傷なら喜んで
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「…悪い、竜ヶ峰」
「いえ、大丈夫ですから」
「いや、ほんとすまねぇ…」
「本当に大丈夫ですって」
池袋最強の喧嘩人形
そんな非日常に溢れた、僕からかけ離れた存在の人から謝られている奇妙な光景になったのには理由がある
♂♀
「臨也あぁぁぁぁっ!!」
「あはははは、嫌だなぁシズちゃん、そんな俺見るたんびにキレてばっかだと血管千切れて死んじゃうよ?
ていうか死ね」
もう見慣れたお馴染みの光景が僕の目の前で起こっていた
――ほんと、何であの人達はあんな純粋にお互いを嫌えるんだろう
これを見慣れて、池袋の平和島静雄と新宿の折原臨也の関係を知ってる人間ならば見て見ぬふりをするだろう光景
だがしかし、僕はそこらへんの一般の人とは少し違うのだった
一応、臨也さんと静雄さんとも顔を知らない仲ではないし、止めた方がいいのだろうか
と、そんな事を考えていた
そして至った結論は、やはりこれ以上物が壊れると僕は別に困らないのだが、標識を作ってる人が可哀想で大変そうだし、そのまま素通りするのも気が引けた
ということで、僕は止めることにした
「静雄さん、臨也さん!!」
僕的には精一杯の大声で叫んだつもりなのだが、キレている静雄さんは僕の存在に気付かず臨也さんだけが此方を向いた
「あ、帝人君だー、っと」
「死ね臨也あぁぁぁ、って竜ヶ峰!?」
丁度臨也さんが僕の方に向かってこようとした瞬間
静雄さんが標識を臨也さんに向かって投げた
そこでようやく僕に気付いた静雄さんは驚いた顔をしていたが、きちんと標識だけは投げていた
臨也さんと僕は直線上にいたが、臨也さんは標識を避けた
勿論僕も標識を避けた…かった
「っ………!」
平均以下の体育の成績の僕が反射的にも避けるなんて器用な真似が出来る筈もなく
出来る事といったら目を瞑るぐらいだった
だが、僕も運がいいのか悪いのか、ギリギリ僕の頬をかすって標識があたる事はなかった
「あーあ、シズちゃんったら、帝人君にあたってたら危ないじゃん」
「わ、悪い竜ヶ峰…!
頬切っちまった…」
言われて頬に手をやるとほんの少しだけ切れて血が出てるのが分かった
「あ、いえこれくらい何ともありませんよ」
「いや、せめて手当てだけでもさせてくれ」
「えっ…、だ、大丈夫ですって!」
「俺の気がすまねぇんだよ」
そう言って僕の手を引いて半ば強引に連れていかれていった
「ふーん、シズちゃんって……」
ホモ?
と、二人が去った後で殆ど空気と化していた男が呟いた言葉を僕は知らないのだった
♂♀
「おし、これで大体オッケーだろ」
「ありがとうございます」
あれから静雄さんに手を引かれて歩くこと数分、すぐに静雄さんの家に着いた
そして意外と言ったら失礼なのだが、手際よく傷の手当てをしてくれた
「にしても、今日は本当に悪かったな」
「いえ、あんな場所にいた僕も悪いですから」
最後に絆創膏を貼ってもらい、僕が静雄さんの家に長居をしても悪いので帰る準備をしていた所
ふとしたひょうしに静雄さんが僕の傷に触れていた
「…あ、あ、あの 静雄さん?」
「いや、なんかな…」
「?」
まるで小さい動物を扱うかのような、愛しそうな目で僕の傷に触れる静雄さんの手があった
そして、
「俺のせいで付けた傷で悪いとは思ってんだけどよ、なんか…俺がつけた傷だと思うとちょっと嬉しくてな」
そんな凄い言葉を笑顔で言われた
しかも多分自分が凄いことを言った何て、これっぽっちも思ってないんだろうから質が悪い
「竜ヶ峰…? 顔赤いぞ、熱でもあんのか?」
「…ななな何でもないです!
あの、それじゃあ、僕帰るんで!
傷みてくれてありがとうございましたっ!」
「おぅ、気いつけて帰れよー
あ、送ってくか?」
「だ、大丈夫です!」
貴方がつけた傷なら喜んで