五万打記念


□全てじゃないって
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※「消えたのは」の続き









逃げた

俺は逃げたんだ、帝人からも何もかも全部から


――いや、…違う
逃げてるんだ

俺は未だに逃げてるんだ



「…………」



そんな考えが、帝人と杏里とよく来てた公園を見て思い浮かんだ


帝人から逃げて数年が立つ

別に、この場所に来るつもりはなかったけど、来なきゃ行けない用事があった


何となく、この場所に来るのは俺の決意がぐらつきそうで避けていた、
といううより池袋に来ること自体を避けていた

けど、もう何年か前のことだからと自分に言い訳して、本当はここに来たかったのかもしれない

帝人との思い出の場所


…俺は、自分から逃げたくせにまだ帝人との繋がりを完全に切りたくないんだ

そのうち何年か経ったらここに戻ってこようと、何処かで考えいる

そして、帰ってきたその時は『お帰り』と言って受け入れてほしいんだ


――とんだ自己中もいいところだな


そんな自分に、吐き捨てるように乾いた笑いがこぼれる


俺は公園の中に入って行き、帝人と杏里とよく座ったいつもの場所に座った

…やっぱり俺は、隣に帝人を求めてる



「……馬鹿だ、俺」



全部自業自得なのに、泣きそうだ
 

ここにいる意味何かないから、早く行こう
そう思い、腰を上げた

用事といってもこの公園じゃなく、別の場所だから、ここにいる必要はないのだ


俺は、無意識に早足で出口に向かう

出入口に着き、さっさと用事を済ませて帰ろうと思って、尚も早足で進もうとして、

足が止まる

ついでに、俺の周りの時間とか色々止まった気がした



「……正、臣?」



目の前に予期せぬ人物



「帝人……」



帝人がいた

丁度、出入口でばったり



「正臣…なの?」



数年経っても幼さを残したままの顔とか
相変わらず短いままの前髪とか

そんなことしか考えられないくらい頭は混乱している



「……正臣、…今まで、何で……」



当たり前だけど、混乱してるのは帝人もみたいで
俺にたいする質問が、片言でこぼれている



「帝人……、ごめん…」



何に対しての謝罪なのか、自分でも分からないが口からでた言葉は謝罪の言葉だった



「……正臣、」



――俺は、こんな再開を望んだわけじゃない


この場から逃げ出したくて、また逃げてしまおうかと思った時、
帝人の目から溢れた



「みか、」

「……よかっ、た」
 
「えっ……」



そう言って帝人は、涙を流しながら地面にへたりこんでしまった


てっきり、怒られるものだと思っていた

いきなり居なくなって、数年してから急に現れたりしたのだから


――俺は、今まで何をしてたんだろう


勝手に帝人の前から姿を消したり、数年後にいきなり姿を見せたりして


帝人は、俺が消えた時どんな気持ちで、
俺がいない間どんな気持ちで、
俺と再開した今どんな気持ちで、
過ごしてきたんだろうか


気付けば、無意識に帝人を抱き締めていた



「……帝人、俺…、ごめん、…ごめん」



今度は明確な理由をもって口にする謝罪の言葉


俺は今まで、言い訳に言い訳を重ねて帝人に会う理由を消したりつくったりしてただけじゃないか



「僕……、正臣が、いなくなった時、…全部、消えちゃった、って」

「……うん」

「…僕の、気持ちも、消したかった……けど」

「? …うん」

「どうしても、正臣が……、好き、で」



俺も帝人のことがずっと前から好きだった
という言葉がすぐに発せれなかった


――俺は、好きな奴に何も言わずに目の前から消えたのか


同じ気持ちで嬉しい、とかそんなこと思う前に、自分の最低な部分しか見えてこなくて
 
結局、俺がした行動は間違いだらけだったけど


でも、消えたのは全てじゃなかった

こんなことをした俺でも、まだこの思いを伝えることが許されるなら



「……俺も、帝人のことがずっと前から好きだった」




消えたのは全てじゃないって
(俺の言葉に驚いて、数年ぶりに見る帝人の笑顔は眩しかったから、)
(思わずキスをした)




 

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