†カカベジ†
□Present For You
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普段にまして色彩鮮やかな街を、しとしとと白い華が舞い落ちる。それは、地面に降り立ちじんわりと染み込んでいくのだ。
窓から見下ろせば、所々雪が積もり白い絨毯の様になっている。昼間から絨毯の上は通行人で沢山だ。
「ちッ…、相変わらず欝陶しい奴らだ」
鍛練の後のシャワーから自室へ戻り、街を見下ろしていたベジータは、室内の冷気に軽く身体を震わせ暖房のスイッチを入れた。
そしてそのままベッドに腰掛け壁にもたれる。
「ったく、地球人ってのはよく分からない生き物だぜ」
ベッドの上で軽くストレッチしていたベジータは、今朝方のご機嫌だった息子と妻を思い出す。
『パパ!今日はクリスマスなんだよね!サンタさん、ちゃんと僕の所来てくれるかなぁ!』
『サンタ?…なんだソイツは、強いのか』
『もうパパったら!違うよ!サンタさんっていうのは、真っ赤な服を着て、良い子にプレゼントを持ってきてくれる人なんだよ?』
『ふふ、駄目よトランクス。ベジータはそういう事には、ほんっと無頓着なんだから』
『無頓着だと…ッ?!』
『あら?何かあたし間違った事言ったかしら?』
『!…ちッ』
『まぁそんなにカリカリしないでよベジータ。今日はクリスマス…まぁ、お祝いする日なんだから。ね?夜には孫君達も呼んで、パーティーするんだから』
『カカロットだと?!』
『悟天も来るっ?!』
『ええトランクス。ちゃんと来るわよ』
『やったぁ!』
『だから、ちゃんとお部屋のお片付けしてらっしゃいね?』
『はーい!』
『……おいブルマ、俺は』
『出るのよ、アンタもちゃんと』
『…』
『出なさいよね』
『…ちっ』
『ふふ。そういう素直なアンタ好きよ、ベジータ』
結局、出席を余儀なくされてしまったベジータは眉根を寄せていた。ちなみにブルマはトランクスを連れて買い物に出掛けている。ベジータは壁に頭をもたれさせ、瞼を閉じる。
「何故俺様が、カカロットの顔など見なければならんのだ」
見るだけで苛立つ、へらっとした子供の様な無邪気なあの笑顔。その笑顔を浮かべ、カカロットはきっと片手を上げて言うのだろう。
「よ!ベジータ」
ベジータは口端を軽く上げた。想像しただけなのに、やけにくっきりはっきりカカロット…もとい悟空の声がする。
「おーいベジーター、寝てるんか?」
「?!」
耳元で囁かれた声に、ベジータは驚愕し目を開け横を見る。にこっと笑った悟空の顔と蟹頭が視界一杯に写った。
「き、貴様…!」
「あれ?起こしちまったんか?悪ぃなベジータ」
「寝てなどいない!何故貴様が俺様の部屋にいて、しかも俺様のベッドに座ってやがるんだ!しかも何故気を消してやがるんだ!」
「ちょ、落ち着けよベジータ。オラ、そんなに沢山の質問に答えらんねぇぞ」
「やかましい!!一つ一つ答えやがれ!!」
「ん〜、えっと。まずオラが此処に来たんは、チチの奴に【準備の邪魔だから時間潰しててくれ】って言われて」
「それで、何故俺様の所に来るんだ」
「パオズ山行こうかなぁって思ったんだけどよ、寒ぃだろ?」
「貴様が寒さなんぞ感じる程神経が柔だったとは、知らなかったぜ?カカロットさんよ」
「オラどーも寒ぃの苦手みてぇだ。で、山行けねぇし、じゃあおめぇん所行こうかなって」
「理由が飛躍しすぎだぜ、くそったれめ。さぁ、もう身体も暖まっただろう。とっとと出ていけ」
「んな冷てぇこと言うなよベジータぁ」
悟空は甘えるようにベジータに擦り寄った。そしてそのままベジータを抱きしめる。風呂上がりらしい、ぬくぬくとした体温と甘い香りが心地良い。
「貴様ッ…!」
「あったけ〜」
「離しやがれ!バカロット!」
「おめぇってあったけぇなぁ」
「話を聞きやがれ!!ぶっ殺すぞ貴様!!」
「あんまり怒んなよ〜、ベジータ」
精一杯抵抗するが、それでも悟空の腕力には敵わない。それが力の差を見せつけるようで、余計にベジータを苛立たせる。
「離しやがれ!!俺様に触るんじゃねぇ!」
「…今のちょっとオラ傷付いたぞ」
「ふん!貴様が傷付こうがつかまいが、俺様には知ったことか」
「…せっかくの、クリスマス・イヴっちゅうのに」
「…おいカカロット、貴様そのクリントンとか言うやつを知っているのか」
「なんだ?おめぇ、知らねぇんか?」
悟空の不思議そうな問い掛けに、ベジータは内心舌打ちした。
「あんな?地球にはクリスマス・イヴっちゅーのと、クリスマスってのが二つあって」
「…」
「今日はクリスマス・イヴなんだぜ?で、なんてったかなぁ、別名【恋人達の日】らしいんだ」
「…!?」
「でぇ好きな奴と一緒に祝う日なんだ!で!子供にはサンタっちゅー…」
「もういい。そっから先はトランクスの奴から聞いているからな」
「そうなんか?ま、いいけどよ」
悟空は何故かご機嫌で、にこにこしながらベジータを抱きしめる。ベジータも抵抗は無駄だと判断したのか、身体から力を抜いた。しかし身体は彼には預けない。プライドが許さないのだ。
「ふん。貴様はとっとと早く家に帰れ」
「だからなぁ?」
「今日は【恋人達の日】なんだろう?だったらチチと一緒にいやがれ」
「…オラはベジータといてぇ」
「?!」
急に真摯になった悟空にベジータは驚いた。振り向けば、悟空の漆黒の夜空を思わせる瞳が、獣のそれへと輝きを変えている。
「言ったろ?でぇ好きな奴といる日だって」
「お、俺は貴様なんか…!」
「オラ、おめぇに嫌われたっていいさ。ただ、オラはおめぇがでぇ好き。それだけだ」
「俺にはいい迷惑だ!こ、この俺が、貴様なんかに掻き乱されて…ッ」
「そんなベジータはオラしか、唯一のサイヤ人の生き残りのオラしか見せてくんねぇんだよな?」
「くそったれめ…ッ」
「可愛い、ベジータ。でぇ好き」
悟空は唇を塞いだ。「んーっ!」という抵抗の声も、悟空が口内を巧みにまさぐる内に吐息に変わる。
次第にベジータの身体からぐったりと力が抜ける。
「ベジータ…」
悟空はゆるりとベジータを押し倒す。彼は抵抗しようと腕を突っぱねるが力が入らない。
逆に瞳を潤ませてもなお抵抗する様は、悟空を煽る。
「ベジータ…オラ、サンタさんからプレゼント貰わなくていい」
「何、餓鬼みてぇな事言ってやがる…ッ」
「だから、オラにベジータをくれよ」
悟空の大きな手が、固い胸元を撫で上げる。ベジータは声をあげそうになり、唇を噛み締めた。
「おめぇが、欲しいんだ」
「ふ、ん!貴様は、大人で、しかも不倫している悪い大人だろうがっ」
「だよなぁ」
「だから、プレゼントを貰えないのは、当然だな」
「貰えねぇなら、力ずくで貰うまでだ」
「な!」