†カカベジ†

□→MOON←
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−満月の夜はあまり好きじゃない。チチが綺麗だって目を輝かせっけど、オラ達純血のサイヤ人には結構きちぃから。

だから今日も、…ほら。



悟空は隣で眠る妻を起こさないように身体を起こし、窓を見上げた。夜空には爛々と白刃の様な満月が輝いている。

「やっぱ、満月か」

悟空はそっと左手を胸にやった。重ねてみれば、大袈裟なくらい胸が高揚し高鳴っているのが分かる。いや、それだけではない。

身体のあちこちを熱い血潮が巡り荒れ、【理性】という名の心を【本能】という狂気の鎖が捕縛していく。

(やべぇな、どっかで頭冷やさねぇと)

顔を上げた時、ふいに西の方角から馴染んだ気を感じた。その気は普段は鋭く冷静沈着な筈だが、今日は違う。自分と同じく荒れ狂い、今にも暴発しそうだ。

「あいつはサイヤ人の王子だもんなぁ、オラよりもきちぃんかな」

悟空は想像してみた。弱々しいベジータ、…ありえない。彼ならそんな姿を見せはしない。例え辛くとも苦しくとも、平静を装い普段通り殺気を放つのだ。

(…ちょっと、行ってみっかな)

悟空は怒られるんだろうなぁ。と苦笑しながら、額に指を宛てた。



悟空は気も音も消してベジータの部屋に瞬間移動した。窓はカーテンで遮られ、室内は暗い。そんな中、目当ての人物はベッドの中央で丸まっていた。

「……ッ」

(苦しそうだなぁ、やっぱ眠れねぇんか?)

悟空はゆっくりとベッドの側まで寄った。ベジータをそっと見下ろせば、全身に汗をかき、瞼はぎゅっと閉じられ、拳はシーツを握り締めていた。

「…ッ…」

(うなされてるんか…、わりぃ夢見てんかな?満月のせいか?)

「…ト」

(?)

ベジータは寝言をぼそ、と囁く。聞き取れなかった悟空は、膝を床につけベジータの口元に耳を寄せる。

「カ、カロッ…トッ」

「!」

「カカロット…ォッ」

(オ、オラの夢見てんか!?)

悟空は頭を振る。今日はいい加減満月なので、理性はないに等しい。本能のまま今彼を襲えば、後に反ってくるのは十倍返しの執行。よくて外見半殺し、悪くて精神的半殺し…つまり逢瀬の遮断である。

(おー怖ぇ)

悟空は理性を繋ぎとめようと必死に闘った。その時…

「カ、カロ…ット」

ベジータの口から吐息とともに漏れた声色は、妙に熱を孕みしっとりとしていたように感じた。まるで、事情中のような甘い感じ。
もしかして、と悟空の頭をある考えが過ぎる。

(もしかしてベジータ、満月のせぇで淫夢見てんか?)

丸まって寝ているのも、無意識のうちにあれが膨脹しているからでは…。

「ベジータ、おめぇもやっぱり満月には敵わねぇよな」

苦笑しながら、ツンと尖った黒髪を指で遊ぶ。ひんやりとしていた気持ちがいい。悟空は少しでも自身を落ち着けようとした。しかし…

「カカロット」

それがやけに鮮明に聞こえた為、悟空が首を傾げた瞬間、顔一杯に右拳が炸裂する。悟空は壁に吹っ飛ぶが、腕をクッションにして衝撃音を防いだ。

「いちちちちっ」

「…貴様、何でまた俺様の部屋に来やがったんだ!!」

「お、おっす」

びりびり、と鼓膜を突き抜ける怒号が悟空に放たれる。それに気圧されながらも、悟空は苦笑いを浮かべ片手をあげた。
しかしベジータはその挨拶する欝陶しいらしい。上半身を起こし、眉根をきつく寄せていた。

「いいかバカロット!貴様にも分かるように俺様が説明してやるから、よぉく聞きやがれ!」

「?」

「今は深夜で、しかも満月だ!分かっているだろう!俺達サイヤ人にとって満月からの影響がどれほど辛いのか!」

「やっぱり、おめぇでも辛ぇんだな」

「な…!」

無邪気に笑う悟空にベジータはだんだんと苛立つ。そして窓から放り投げてやろう、と考え立ち上がろうとした。しかし、立てない。何か違和感のようなものが邪魔をしたのだ。

「…?」

「ん?どうかしたんか?ベジータ」

「何でもない。少し…違和感を感じただけだ」

「違和感?気は荒れ狂ってっからかなぁ」

「違う。そのようなものではない、俺自身の身体の違和感で……、!」

はっと気付きベジータは布団の中にそっと手をのばした。予感的中。ベジータは荒々しく舌打ちした。

「サ、サイヤ人の王子である俺様が…ッ!満月ごときにッ!」

「たっちまったんか?」

「!!!」

「おめぇ、淫夢見てたんだろっ。寝てるベジータなんっか色っぽかったしよぉ」

「な……ッ!だ、黙れ黙れ黙れぇ!!」

ベジータは羞恥と怒りに頬を上気させ、悟空に掌を向けて気を集めだした。さすがの悟空も目を開き慌てふためく。

「ば、馬鹿っ!止めねぇかベジータ!」

「うるさい!!!お、俺様が、俺様がそんな下品な夢を見るはずが…ッ」

「こんな部屋でぶっ放したら、ブ、ブルマがすんげぇ怒んぞ!」

「…ッ。ちっ、くそったれめが!!」

ベジータは開いていた拳を握り気を消す。悟空は安堵の息を吐き、なるべくベジータを落ち着かせようとした。

「ま、まぁオラ達は男だしな」

「慰めなど、無用だッ」

「慰めなんかじゃねぇよ、自然現象だって」

「やかましい、黙れ!万年発情期の貴様がこうなるならともかく、こ、この俺様がッ…!」

悟空は内心むっとしながらもベジータを優しく見つめた。どうやら、よほどショックだったらしい。
確かに理性の塊で純潔潔癖なベジータからすれば、それはありえないんだろう。

(どうしたら、それが普通だって分かんかなぁ)

「……ないのか」

「へ?」

「貴様はなっていないのかと聞いたんだ!!!」

「…オラ?オラぁぁ?!」

「さっさと応えやがれ!」

悟空は眉根を寄せた。確かに身体は辛い。だが平常を保てば、なんとか抑えこめないこともない。
だが、よくよく考えれば欲情しているのは事実だ。

(あんな色っぺぇベジータに名前呼ばれたんだ、たたねぇ方がおかしい)

しかし理由を言うと、今度こそ気をぶっ放されそうなので、悟空は完結に述べた。

「オラもおめぇと一緒だ」

「………やらんぞ」

「そんなに警戒すんなよ〜」

「貴様の事だ。てめぇの下の世話の為に力付く、なんて他愛ないんだろう。油断できねぇ野郎だからな」

「でも、おめぇだって気持ち良いんだからいいじゃねぇか」

「黙れ!」

「本当の事なのに」

「ふん!…ともかく、今日は俺様は余裕がねぇんだ。とっとと失せろ」

「やだ」

悟空は首を横に振ると、勢いよくベジータに抱き着いた。体躯の差でベジータはバランスを崩し、結果悟空が押し倒す恰好になってしまった。

「離せ貴様!殺すぞ!」

「は〜…、落ち着く」

「は!な!せ!」

「ベジータ、おめぇすんげぇな」

「何がだ!!」

「さっきまでオラ辛かったのに、おめぇに触れた途端に楽になった気ぃすんだ」

「…、ちっ」

ベジータもどうやら効果があったらしい。悟空の頭にげんこつを喰らわせて、後は好きにさせていた。

「……なぁベジータ」

「断る」

「まだなんも言ってねぇぞ!」

「ヤる、とかふざけた事を言いやがるつもりなんだろう貴様は」

「は、はは…」

「くだらん」

「なぁ、ベジータぁ」

悟空は甘えた声を出しベジータの首筋にちゅ、と軽いキスをした。

「オラ、おめぇが欲しいんだ」

「はっ!貴様ごとき下級戦士にそう毎度毎度くれてやるものか」

「いいじゃねぇかよぅ」

「ふん」

「なぁなぁベジータぁ」

悟空は、そっとベジータのシャツに手を潜り込ませた。少し汗ばんだ肌に掌がぴた、とくっつく。

「気持ちよくしてやっからさぁ」

「…黙れ」

ベジータは悟空の手を引っこ抜くと、悟空の首に腕を回して唇を重ねた。当然、初めての事に悟空は頭が真っ白になる。

「…ふん、今日はこれで我慢しやがれバカロット」

「お、おめぇ今…ッ」

「なんだ?俺様からしてやったんだ。もうちょっと嬉しそうな顔したらどうだ」

強気な笑みが悟空に向けられる。
悟空は思った。ああ、これはきっと満月が見せてる夢なんだと。

「もう一回…」

「今度は舌を噛みちぎるぞ」

「…くすん」

悟空がうなだれていると、ベジータはぐいっと抱き寄せる。

「ベ、ベジータ?!」

「早く抱いてやがれ。俺様も満月は辛いんだ、くそったれめ」

「あ、ああ」

「その代わり下品な行動しやがったら、ぶっ放すぞ」

「…は、はは」

悟空は渇いた笑みを浮かべながら、ベジータは優しく抱きしめた。鼻梁に甘い匂いと男の匂いが微かに香る。

(生殺しっちゅーんだろうなぁ、これ)

悟空は徐々に冷めてきた身体の熱に安堵しながら、心地よく睡魔に誘われていった。



あんなに積極的なベジータを見られんなら。
満月ってのも悪かねぇな。
なぁ?ベジータ。



アトガキ
悟空さがお預け喰らったワンちゃん化してます(笑)ご主人ベジータ、そう簡単にはご褒美をあげないんですね(笑)

え?何が書きたかったんだお前って?

満月の夜の二人を書きたかっただけです!!(ババーン

つまりは計画性皆無なのです☆(こら


2009/12/31

 

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