†カカベジ†

□with
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−一つ、見落としていた事がある。
天国にいる自分からは地球の様子や望む者の様子を伺える。しかしそれは、地球からは出来ない事だったのだ。






「よっし!」

天国にある武練場に修業に来ていた悟空は、軽くストレッチを済ますと早速トレーニングを始めた。

手始めに適当な相手と手合わせをし自分自身の体調を知る。今日はとくに異常もなく気持ち良い汗をかけていた。そんな時だ。

「おぅい悟空〜」

「界王様!」

「ちょっとこっちへ来ーい」

「分かった!」

悟空は額に手を当てて瞼を閉じる。次に目を開けた時、一面にピンクの空が視界に映り、続いて芝生に立つ界王がこちらへと向かってくる。

「界王さ」

「いいか悟空。今から何も言わずにワシの肩を掴め」

「?」

悟空は界王に促されるままに肩に右手を置いた。瞼を閉じれば、浮かび上がるのはC.C.の一室にいる悟空のライバルであり大好きな王子様で…。
?!

「これがお前に見せたかったもんだ…悟空」






『俺はもう、闘わない…』

あらゆる戦闘を放棄して早数カ月。ベジータは何か特別やることもなく、ただ妙に虚ろに見える世界を窓から眺める…そんな毎日を過ごしていた。
カカロットがいない。今まで生きる目標にまでなっていた存在の消失。

心が、ひどく冷たい。

「…」

朝焼けが照らす暗い部屋でシーツに体を沈めベジータは自嘲気味に笑う。

なんて、情けない。
なんて、滑稽。
たった一人の下級戦士にここまで心を揺さぶられるなんて。

「殺してやりたいぜ、くそったれめ…!」

誰を?と聞かれれば己を。と迷いなく答えるだろうとベジータは思っていた。自分は戦闘民族サイヤ人の王子だ。戦闘を放棄するという事はサイヤの血を否定するに等しい裏切り行為。

「馬鹿馬鹿しい」

何もかもが馬鹿馬鹿しい。たった一人に追い付く為に、No.1の座を取り戻したいが為に費やした時間も何もかも。

「ちくしょう」

違う、馬鹿馬鹿しいのは自分自身だ。
こんな考えを昔の悪人の頃は思わなかった。
ちくしょう!平和とか地球に緩和されて情けなくなった哀れな精神が疎ましい。

「カカロットの馬鹿野郎…!」

ただ奴に八つ当たりするしか、今のベジータには思いつかなくて。それがひどく惨めで悔しくて…知らず知らずのうちに涙が流れた。





「…ベジータ」

その一部始終を見ていた悟空は嘆息した。
正直、複雑である。傲慢な彼を『悟空』という存在で支配出来ている狂喜と罪悪感が心を苛む。

「本当は、見せるべきではないんだろうがなぁ」

「…いいや界王様。ありがとうな」

「うぅむ」

「なぁ界王様…」

「なんじゃ」

「あいつがあんなんになっちまったんはオラのせいなんだ」

「…」

「だからよぉオラやっぱ、けじめっちゅうんつけなきゃなんねぇ」

「悟空お前」

「悪ぃな、界王様」

悟空は界王に軽く会釈すると額に指を当てた。その様子を見た界王は慌てて悟空を引き止めようとする。

「い、いかんぞ悟空!お前は死んでるんだぞ!死んだ人間が地上に行くなんて」

「分かってるさ」

「へ、下手をすればそのまま地獄行きなんだぞ!?閻魔だってきっと承知せん!」

言い募ろうとする界王の言葉が止まる。

「それでもオラは」

それは、あまりにも悟空の笑顔が。

「行かなくちゃなんねぇんだ」

「悟空!」

覚悟を秘めたものだったからかもしれない。





「…ん」

いつの間に眠ったんだろう。
ベジータはぼやけた視界を手で擦り、俯く中顔だけ横に向けて窓を見上げた。夜空に青白い月が浮かんでいる。気配を探ってみると家人はもう眠りについたらしい。
時計を見れば深夜を回っている。

「…随分、怠け癖がついちまったな」

「本当、おめぇらしくねぇぞ」

「……、……っ!?」

ばっと身体を起こして戸口を見れば、そこに立っていたのは見慣れた蟹頭と胴着で。

「よっベジータ」

「…カカっ」

「ははっ、来ちまった」

悟空は無邪気な笑みを浮かべて隣に腰掛ける。ベジータは震える指先で悟空の頬に触れた。夢想のように陶器みたいな冷たさではなくまさに人間の肌と温もり。
ずっと、ずっと求めていた…。

「ベジータ」

「ば…っか野郎!貴様、貴様って野郎は…!」

ベジータは勢いよく彼の胸倉を右手で掴み、左拳を握りしめる。
殴ってやろうと思った。そのむかつく笑顔を潰してやろうと。なのに…

「ベジ…」

「…くっ、ぅっ!」

涙が頬を伝いシーツに染みる。ベジータはずるずると力が抜けて、しまいには胸倉を掴んでいた手がすとんと落ちた。

「貴様なんか…っ、あの世でもなんでも行けばいい…んだっ…!」

「オラは」

「黙れ!言い訳なんか、聞きたくないぜ!何をしに来やがったカカロット…!」

「おめぇ呼んだだろ?」

「な」

「オラの馬鹿野郎って」

「!」

悟空は苦笑しながらベジータの涙を舌で舐めとる。久しぶりのざらりとした感触に身体がびくん、と反応する。

「なぁベジータ」

「な、んだ」

「オラおめぇが好きだ」

「何クサイ台詞吐いてやがる」

「好きだベジータ」

「いい加減に…っ」

それは以前みたく貪るような激しいキスではなく、触れるだけの優しいキス。
冷たかった心の温度が上昇していく。

「カカロッ、ト」

「早速で悪ぃんだけど、抱いていいか?」

「相変わらず下品な野郎だぜ」

「ははっ」

「…ふん。好きにすればいいだろう」

「ベジータ…」

口付けながら、ゆっくりと覆いかぶさる悟空の背中にベジータは腕を回した。久々の逢瀬に身体はもう熱をもっている。
ふいに、ベジータの指先が何かを掠めた。それを目で確認して驚愕する。

「カカロット、貴様」

「…やっぱり、気付いちまったんだな」

「羽が」

「うん」

悟空の背中から生えた翼は初め汚れなき純白であった。だが今は先から紅黒く変色し始めている。

「ルール破っちまったかんなぁ」

「だから貴様は馬鹿野郎って言うんだ」

「いいじゃねぇかよ」

「ふん」

「一緒に地獄に堕ちようぜ、ベジータ」

「…悪くないな」

ベジータは口端を上げると、悟空の存在を確かめるように自ら口付けた。






アトガキ
設定はセル戦後ぐらい。
イメージ曲はT.M.Revolutionの【ヴェステージ】です。この曲の雰囲気とプロモ大好き。

そんなこんなで、まぁこんなEDがあってもいいんじゃないかなって思いました。
ベジータはすごく精神強いけど、それって悟空っていう壁というか目標があったからだと思うんですよ。
だから彼がいない日々はきっと苦痛だったんだろうなと。

切ない話が書きたかっただけ(笑)


2010/02/26


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