†カカベジ†

□君ノタメニ
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悟空は目の前の光景に、ただ固まった。



「なぁベジータ大丈夫なんか?!」

「もうしつこいわねっ!大丈夫って言ってるでしょ?!」

このやり取りも何度めだろうとブルマは嘆息し熱めのコーヒーを口に含む。苦味のあるブラックが喉を心地よく通り、疲れた声帯を癒してくれる気がした。
しかし目の前の大柄な宇宙一最強の男は疲れ知らずらしい。

「ベジータが風邪ひいちまったんだぞ!」

「知ってるわよ」

「ベジータも病院行くんかなっ?あのすげぇ痛い注射すんかなっ」

「ベジータは孫くんと違ってそんなことで喚かないわよ」

「お…いっ!貴様ら……っ」

掠れた声がブルマと悟空の視線を声元へと絡めとる。熱で火照った頬や潤んだ瞳からはコレがあのベジータとは思えないだろう。
しかし鋭い眼光は彼特有のものだ。

「ベジータ!」

悟空がベッドに横たわるベジータの隣へと寄る。それをブルマは(ただの風邪なのに)と冷めた目で見ていた。ふいに視線に気づいたベジータが軽く舌打ちしてそっぽを向いた。

「カカロット…っ、さっさと消えろ…」

「イヤだ!オラ決めたんだ、おめぇの風邪が治るまでオラが看病してやる」

ベジータとブルマは目を見開いた。
今確かに看病という言葉を聞いたような気がするが、この男は意味をわかっているのだろうか。

「貴様が…けほ、看病だと?」

「おう!なぁいいよなブルマ」

「いいんじゃないかしら。おも…しろそうだしね」

「ブルマっ…貴様…!」

ベジータはブルマが包み隠さず直球な女だという事を失念していたらしい。悪態をつこうにも頭痛が気力を奪っていく。遠ざかる意識の中でベジータは開きなおる事にした。
もうどうにでもなりやがれ!くそったれ!

「よしオラ頑張っぞ!まずは飯だな!ベジータ何食いたい?恐竜?魚?」

「アホかぁ!病人にはお粥でしょ!?もうほんっと非常識なんだから孫くんは!」

「でもあれだけじゃ腹膨れねぇだろ?」

「そういう問題じゃないの。もういいわ、あたしが作るから」

次の瞬間、ベジータは勢いよく上半身を飛び起こさせた。その顔色は先程とは真逆な程真っ青だ。ブルマと悟空は瞬きをしながらベジータを凝視する。

「そ、それだけは止め…っ!げほっげほっ」

「なんでなのよ。愛妻お粥食べたくないわけ?」
「カ、カカロット!魚だ!今すぐ魚を食わせろ」
「おう分かったベジータ!ちょっと待ってろよ!」

大好きな恋人からのお願いに悟空は高速で空を舞う。それを見送ったベジータは安堵してそして…


ばたん


勿論ながらベッドへと体を倒れさせた。




「…ん」
鼻孔を香ばしい匂いがくすぐりベジータは目を覚ました。まだ上手く機能してくれない思考でも、視界いっぱいに広がる夜闇にもう夜なのだと認識する。
いつの間に眠っていたのだろう…

「…」

ふいにベジータは頭だけを動かして辺りを見回した。しかし目的の人物は見当たらない。
もう帰ったのか、とベジータは考えた。
かなりムカつくけれど、少し寂しがってる自分がいる。
ベジータは舌打ちした。知らず知らず熱いものが込み上げてくる。

なんという醜態だ、生き恥だちくしょう!
こんな事考えちまうのは風邪のせいだ!
ちくしょう…っ、カカロットの馬鹿野郎っ!

瞼をきつく閉じて嗚咽を堪えた時だった。


「お!起きてたんだなベジータ」


戸口から漏れる淡い光りを背に受けながら悟空がベジータに微笑みかける。
そして手に持っている土鍋を高々と持ち上げてベジータの室内の電気をつけた。闇になれた目に光がささり視界が鮮明しない。

「ブルマに教えてもらってやっと出来たんだ!さぁ食…」

「なんだ…どうかし」

ことん、と音がしたかと思うとベジータを一気に温もりが包む。徐々に鮮明になる視界で悟空に抱きしめられているのだとベジータは理解した。

「離せカカロッ…!」

「大丈夫か?」

「!」

ゆったりとした優しげな声音がベジータの耳に触れる。

「怖ぇ夢でも見たんか?おめぇ泣いてっぞ」

「ふざけるな!このベジータ様が泣くわけないだろう!」

「なら熱のせいなんかもな」

にかっと悟空は笑うとベジータを離して近くのテーブルに土鍋を置いた。蓋を開ければ真っ白な湯気がもくもくと部屋に広がり空気となっていく。

「食えるか?」

「馬鹿にするな」

ベジータは上半身を起こしてレンゲを取り、中身の粥と魚を上手く割いて口に運ぶ。
意外に味がしっかりしていてベジータは驚いた。悟空の作ったものは未知の食べ物だと思っていたからだ。
それともあまりに空きっ腹なので味覚が狂っているからなのか。

「なぁ美味い?」

「…ふん、まあまあだな」

「オラ一生懸命頑張って習ったんだぜ!おめぇの病気が早く治りますようにって願いも込めたんだ」

かぁ、と頬に熱が籠るのをベジータは感じたがそれには気付かぬ振りをして黙々と粥を口に運ぶ。
熱い粥を一噛みすれば、じんわりと味が口に広がっていく。
やがてカラン、とレンゲが土鍋に置かれベジータは一息ついた。そして隣に座っているはずのカカロットを見ると。

「くかぁ〜」

だらしなく開けた口からは涎がシーツへと流れている。ベジータは舌打ちして起こそうと拳を握りしめたが、視界にうつったソレに視線が固定されてしまった。
大きな手に出来ている小さな切り傷。それは一つや二つではなく、両手全体にあった。

「ちっ、慣れないことなんてしやがるからだ。くそったれ」

ベジータの口から悪態が漏れる。しかしその表情は、

「今日だけだからなカカロット」

至極嬉しそうなものだった。



後日、元気になったベジータの代わりに悟空が風邪をひいたのはまた別のお話。




アトガキ
閃架様に捧げます。まずは謝罪を
す す

すみませんでしたぁぁぁあああぁあああぁ
リクエストを頂いてからこの遅さ!もう本当にすみませんでしたぁぁぁあああぁあああぁ!
クオリティの低さもさることながら……すみません(泣)

こんなものでよかったらお持ち帰り下さいませ!

2010/06/09

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